R15指定 長編SS

陸海空 -Caress of Venus-

序章 第四話 -通算 第四話-

第四話 大文字版

DIVE TO BLUE -IV-



04-01

 最初にその呪縛を解いたのは津川だった。
夏海「な、何って事してんの! いい加減離れなさいっ!!」
 俺の腕を抱え込むと自分の方に引き寄せる。結果、陸海さんから引き離される。

夏海「クー、公人の事は好きでも何でもないんじゃなかったの!?」
空  「はい、昨日まではそう思っていました。ですが、冷静になって考えてみると
    公人さんの人を引き寄せる人格に魅入られている事に気付きました」
 きつく引き寄せてるせいで津川の豊満な胸に腕が埋まっている。
公人「あの〜、言い辛いんだけど。津川、腕放してもらえると嬉しいんだけど」
夏海「ダメ! 今放したらクーに襲われるわよ!」
空  「襲いはしません。ですが夏海のように腕に抱き付く事はしてみたいです」
 と言って腕に絡みつき、ギュッと抱き付く陸海さん。
公人「あの、腕に胸が当たってるんだけど」
 その言葉に反応して真っ赤になる津川と、構わず頬をすり寄せる陸海さん。
夏海「そんなこと意識するな、馬鹿っ」
 俯いて更に力を入れてくる。

 やばい、おっきしてきた…… ポールポジションを直したいが身動きが取れない。
公人「あはは…… 二人とも冷静になろう。話はそれからでも遅くないと思う」
空  「お酒の力は借りてますが冷静です。純粋な愛情表現にすぎません」
夏海「クーの魔の手から救い出したら離してあげる」
 説得工作失敗……



04-02

公人「料理が冷める前に食べた方がいいよね? 両手が塞がってて食べられないよ」
空  「こうしているのが心地よいので離したくありません。夏海に食べさせて貰って
    下さい。その点はまだ彼女だと認めて貰えていませんので我慢します」
夏海「……クー、腕を放さないと公人に口移しで食べさせるしかないわよ。いいの?」
空  「それは私もしたいです」
 いや、そこは非難する部分じゃないのですか?
公人「ちょっと待て、二人とも論点がずれてきてないか?」
夏海「ないわ」
空  「ないです」
 即答。

空  「確かにこのままでは公人さんの迷惑になりますね。夏海、提案があります。
    口移しで食べさせる事でお互い引きましょう」
夏海「いいわ。その条件飲みましょう」
公人「ちょっと待て。俺の意思は無視なのか?」
夏海「これ以上先延ばしにすると料理が冷めてしまうから仕方ないわね」
公人「なぁ、今思いついたんだが──」
夏海「却下」
 聞けよ。

公人「口移しに拘らなくても陸海さんを引き剥がす──」
空  「無理です。私の愛はそれくらいの障害など容易く打ち砕きます」
公人「キスってそんな簡単にするモンじゃないだろ。じゃなきゃキスする意味がないし」
夏海「そうね、私のファーストキスが口移しで食べさせるために失われるのは心外
    だわ」
空  「私は公人さんとであればそう思われても構いませんが、先程ファーストキスは
    済ましましたので問題は全くありません」
 貴様らホンキか!? っていうか今までキスした事ないってのが信じられない。
 こんな美人を放っておくとは二人の周りにいた奴らの目は節穴か?



04-03

夏海「公人、目を瞑りなさい」
公人「は?」
 イキナリ何言い出すんだ。
夏海「私はファーストキスなの! ムードもなく初めてのキスを済ませろって言う
    の!?」
 いや、逆ギレされても困るんだが。

公人「言い辛いんだが、津川まで口移しで食べさせる意味ないんじゃ──」
夏海「じゃぁ何。クーとはキスできても私には魅力がないからキスできないって事?」
 こちらを見つめる目にじわじわと涙を浮かべ始める。
 完全に論点を見失ってるぞ、津川。
公人「いや、そういう事じゃなくってだな──」
空  「夏海ほど魅力的な女性はいません。そして私は夏海の親友である事に誇りを
    持っています。その親友を侮辱するのは公人さんであろうと許しません」
 キリっとした表情で言い放つ。
 でもね、腕に抱き付きながら言っても説得力ないですよ?

夏海「私はクーみたいに可愛くないし、キスなんてしたくなるわけないよね……」
 肩を震わせて泣き出す津川。
公人「二人を比べる事なんて出来るわけないだろ。二人とも綺麗で可愛いんだから」
夏海「だったら証明して」
空  「キスしてあげて下さい」
 もはや引くに引けない状態のようだ。

公人「陸海さん、腕放してもらえる?」
 しぶしぶ腕を開放してくれる。
 空いた片手で津川を軽く引き寄せると、夏海は顔を上げ上目遣いで見上げてくる。
夏海「公人…… 私可愛い?」
公人「……とても可愛いよ」
夏海「ありがとう、嬉しい……」
 そして目を閉じた津川に唇を合わせるだけのキスをした。



04-04

 数秒そのままにしておいたが、放してくれる気配がないので少し強引に引き離す。
夏海「いじわる……」
 キスした後に上目遣いで拗ねるのは反則だと思う。あの津川ですら凶悪な可愛さになる。

 そして肘の辺りをくいくいと引っ張られる気配。
空  「私にもキスして下さいませんか?」
公人「少し前にしたよね……」
空  「公人さんに、公人さんからキスして欲しいんです」
 何か違うのか? 津川に助けを求めようとするが津川もなぜか同意してるっぽい。
夏海「確かにこれでは不公平ね。公人、許してあげるから優しくキスしてあげなさい」
 いや、不公平とか許すとか全然意味分かんないんですけど。

空  「それとも夏海には出来──」
公人「陸海さん、それはもういいから……」
 ここで疲弊した姿を見せてキスしたらリテイク食らいかねないので気合で立ち直る。
 陸海さんの両肩に手を置き見つめる。
公人「今からキスしたいと言ったら許してくれる?」
空  「はい、私もして欲しいです」
 普段では気付かない程度に瞳を潤ませ微笑む。一気にテンションが最大まで復帰する。
公人「目を閉じて」
空  「はい……」
 細い肩を抱き寄せるように腕を廻しキス。陸海さんの腕が背中に廻される。

夏海「…………で、いつまでキスしてるのかしら?」
 肩を叩く手がいやに恐ろしかった。



04-05

公人「さて、夕食の続きに戻ろうか〜」
 空元気に取られそうなほど元気に提案する。
 このままではどんどん要求がエスカレートするおそれがあるからだ。
 『ブラボー!』とスタンディングオベーションしている観客を発見されたらマズイ。

空  「では、公人さんに口移しで食べて頂く順番についてなのですが」
夏海「そうね、別にいくら時間をかけようと構わないけど、この調子で続けていては
    深夜になりかねないわね」
 まだ続ける気なのか?
公人「いや、もう開放されてるから普通に食べられるし。ね?」
空  「最早決定した事項ですので棄却は承服できません」
夏海「私はそのためにファーストキスまで失ったのよ!」
 完全否定。
 っていうか、失ったっていうのは表現の仕方間違ってるだろ。

公人「もしかして全部俺の責任になってる?」
夏海「私の唇に初めて触れる権利をあげたのだから、私の要求を呑む義務はある
    わね」
空  「私は責任を公人さんに押し付けるつもりなんてないのに、酷いです……」
 そう言ってグラスに残ったワインを喉に流し込む陸海さん。
 お願いだからそれ以上飲まないで下さい……

空  「夏海、公人さんを極めて下さい」
 瞬時に関節を極めてくる津川。って、連携上手すぎだろ。
夏海「そうね、口移しするのは料理じゃなくてもいいものね〜」
 耳元で艶っぽく囁いてくる。陸海さんはグラスにワインを注ぎ直すとすり寄ってくる。
空  「私、ワインが好きになりそうです。抵抗しないで下さいね」
 微笑むとグラスを傾けワインを口に含んだまま覆いかぶさってくる。
 仕方なく唇を開く。ワインとともに陸海さんの舌がおずおずと差し込まれ絡み付く。
 それはグラスが空になるまで続けられた。



04-06

夏海「ねぇ公人。まだ抵抗する? 私としては素直に私に従って欲しいんだけどな〜」
 耳元で甘く囁く津川。ついでに耳を軽く甘噛みしてゆく。
公人「分かったから関節極めるのはやめてくれ……」
 腕を開放してグラスの準備を始める。

空  「公人さん。私、あんなに素敵な経験初めてです……」
 胸に顔を埋めうっとり囁く陸海さん。確かに気持ちよかったけど何か間違ってる。
空  「あ、ごめんなさい。少しワインをこぼしてしまったみたいです」
公人「あぁ、別にいいよ」
夏海「そうね、またこぼす事になるんだし気にしなくていいわよ」
 いや、少しは気にしろ。

 グラスを手ににっこり微笑む津川。ちょっとS入ってますね?
公人「あの〜、初めてじゃないけど優しく程々にお願いします」
夏海「大丈夫、私の方は初めてだから遠慮できないの」
 全然大丈夫じゃない。と言う間もなくグラスを傾け覆い被さってくる。
 唇が触れ合ってる部分からワインが零れるのも気にせず大胆に舌を使ってくる。
空  「夏海、見かけ通り大胆ですね。私も見習わないと」
 頼む、そんな悲しい事言わないでくれ。

 満足したらしく唇を離す津川。
公人「少しは遠慮しろ」
夏海「ごめんね〜。私、さっきので酔っ払っちゃって制限利かないみたい」
 絶対Sだ、コイツ……
夏海「この量だと後三回くらいで飲み終わるわね〜」
 グラスの中のワインを回しながら嬉しそうに笑っていた。



04-07

空  「本当にごめんなさい。服が濡れてしまいましたね」
夏海「まぁ仕方ないわよ、洗濯するから脱いで」
公人「き、気にしなくていいから。ホントに!」
 この状況でシャツまで脱がされたら何されるか分からん。

空  「濡れた服を着ていたら風邪をひきます。それ以前に私達のせいで汚してしま
    った服のままにするなんて事は出来ません」
夏海「う〜ん。無理矢理脱がしてもいいんだけど、シャツは絶対破れるわね」
 なぜそういう事に関してだけ協調するんだ?
公人「いや、うら若き女性の前で脱ぐなんてハレンチな事はデキマセン」
夏海「無理矢理にでも脱がすしかないか〜」
空  「そうですね。破れてしまったら明日にでも、私が代わりの服を用意してきます」
 仕方ないと頷き合う二人。
 何か期待に満ちた瞳ってやつじゃないのか?

公人「はぁ…… じゃぁ洗濯頼むよ」
 と、シャツを脱ごうとする腕を押さえる2本の手。
夏海「さぁ脱ぎましょうね〜」
空  「お手を汚してしまいます。私に任せて下さい」
 ピタっと動きを止め見詰め合う二人。そして頷き合う。
 津川は上から、陸海さんは下からボタンを外し始める。
 アイコンタクト!?

空  「では、洗濯しておきますね」
夏海「身体を拭いてあげるわ」
 ピタっと動きを止め見詰め合う二人。
夏海「私が洗濯してあげ──」
空  「私が身体を拭いて──」
公人「二人して行ってこい!」
 残念そうにチラチラこちらを盗み見ながら部屋から出て行く二人。
 はぁ…… 夕食の終わりが見えないよ。



04-08

 リビングに戻ってきた二人は、さも当然といった風に俺の左右にぴったりと座る。
公人「このソファは三人がけだよな?」
夏海「そうね」
公人「四人で座ってるわけでもないのに何故こんなに寄り添って座るんだ?」
空  「それは愛の引力です」
 これも即答ですか。

夏海「じゃぁ私の料理を食べて貰いましょうか〜」
公人「マテ。上半身裸の男を放っておいていいのか?」
 陸海さんが胸に抱きつくように覆い被さってくる。
空  「勿論風邪をひかない様に私が暖めますので安心して下さい」
公人「いやいやいやいや、まてまて。マナーとか色々問題あるでしょ?」
空  「マナーを気にして公人さんをないがしろにする事は出来ません」
夏海「仕方がないからこちら側は私が暖めつつ食べさせてあげるわね」
 会話としては成り立っているが、絶妙にズレまくる。

 しかし、状況は各段に悪くなってる。シャツ一枚分とはいえ胸の感触がより鮮明に
 感じられる。理性の限界が突破してしまうのは目前だ。
公人「ん〜と、シーツとか毛布貸してもらえると嬉しいなぁ〜」
夏海「食事中に寝具に包まるなんて非常識ね」
公人「……大きめの服とかないかな?」
空  「残念ですが公人さんが着られるような大きさの服は持っていません」
 なぜか前もって答えを準備してたんじゃないかと思えるほど、返事が瞬時に返ってくる…
公人「暖房入れたら風邪ひく事もないんじゃないかな」
夏海「無駄に資源を浪費するのは清貧の志を──」
 それはキャラ間違ってる。打ち合わせしてるのは明らかだ。

公人「……仕方がない、正直に言う。ニットがくすぐったくて──」
空  「それでは仕方がないですね。公人さんの為にも脱ぎます」
 止める間もなくセーターを脱いでしな垂れかかってくる陸海さん。
夏海「くっ…… 謀ったわね、クー」



04-09

 陸海さんの肌の感触を直接感じて思考停止に陥る。
空  「公人さん、こうして胸に抱かれているだけで全てを忘れてしまいそうです」
 僅かに身動ぎする度に滑らかで繊細な肌が絡みつくような錯覚を与えてくる。
公人「……ぁ、…………っ……ぅ……」

 意識が飛びかけて本能に従いそうになった時、回転するような機械音が聞こえ始め部屋に温風が流れ込む。
夏海「そんな格好じゃ風邪ひきそうね。仕方ないから暖房入れてあげたわ、最強で」
空  「暖房なんて必要ありません、公人さんに暖めて貰いますので」
夏海「遠慮しなくて── あぁ、暑い。暖房切れないし私も脱ぐ事にしようかしら」
 温風が身体に当たった事で陸海さんの肌の感触にギリギリ抵抗できる隙が出来た。
公人「…………しようかしらじゃなくて脱いでるのは誰だ」
 朦朧とした意識だが、既に津川がセーターを脱ぎ捨てているのが見て取れた。

空  「貴方には私だけを見詰めていて欲しいです」
 頬を両手で挟まれ、顔を陸海さんの方向に向けさせられる。
夏海「やっぱり脱ぐと寒いみたいね。公人、そう思わない?」
 腕から背中にかけて温かく柔らかなものを押し当てられる。
公人「ひ、卑怯な……」
空  「くっ、後ろからなんて」
夏海「ふふふ。クー、理解したなら貴女の育ちの悪さを呪うのね」
空  「夏海、貴女……」
夏海「貴女はいい友人だわ、でも貴女のバストサイズがいけないのよ。ふふふ……」
 お前ら実は仲悪いだろ。



04-10

 二人のマニアックな会話で少し落ち着きを取り戻した俺は、最後の力を振り絞り
何とか二人を引き剥がす。
公人「暖めてくれるのは嬉しいし、気持ちい…… じゃなくて。そんな格好で抱き
   ついたら胸が当たって──」
空  「そういう事でしたか。申し訳ありませんでした」
夏海「そうね。ブラ外さないと直に感触を味わえないって言いたいようね」
公人「いや、お前らそれでいいのか?」
空  「私はいつでも全てを公人さんに捧げる覚悟は出来ています」
夏海「私にここまでさせておいて今更何が言いたいの?」
 突っ込みどころ満載だが敢えてスルー。深呼吸をして口を開いた。
公人「夕食がとっくに冷めてる」
 あ…… と顔を見合す二人。手段のためなら目的は選ばないタイプだな。

公人「まぁこのポジションについては妥協しよう。正直俺も嬉しい事は確かだ」
 左右を固められて座らせられている俺。
 問題は服を着ようとする気配のない二人だ。
 正直な感想を言わなかった事が災いした教訓のもと、言葉を選んで説き伏せる事にした。
空  「私も嬉しいです」
公人「つぅか、抱きつくな──っ。せめて服を着てくれ」
 隙あらば抱きついてくる陸海さんを何とか振りほどく。
夏海「まだまだ沢山あるんだから、ちゃんと味わって食べなさいよ」
公人「ってお前も食べさせるのに擦り寄ってくる必要ないだろ!」
 胸を押し当てるようにしながら箸を差し出す津川を押し戻す。
 変なところを触るわけにはいかないし、かなり気を使う。

理奈「ふむ、まるでハーレムね」
 リビングの扉を開けて入ってきたのは二人の友人『高屋敷理奈』だった。




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2006-02-09 作成 - 2006/10/12 更新
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