R15指定 長編SS
第一章 第二話 -通算 第八話-
第八話 小文字版
winter fall -I-
08-01
大学の門を抜け敷地に入ると、すぐに周囲の空気が変わった事に気付く、何か視線が集まってるような……
夏海「あ〜、公人。周りは気にしなくていいから」
気にするなと言われてもあからさまに嫉妬の篭った視線を感じるんですが……
空 「何かあるようであれば、私が公人さんをお守り致しますので安心して下さい」
公人「普通それって男が言う台詞だと思うんだけど」
あらゆる方向からざわめきが立ち上る。
何となく後から大量の足音も聞こえてくるような……
居心地悪いなぁと思いつつ歩き続けていたが、進路を妨害するように立つ巨漢を見て夏海が立ち止まる。
夏海「伊達、邪魔よ。どきなさい」
伊達と呼ばれた男はこちらを威圧するように口を開く。
伊達「この男は一体何者ですか」
夏海「安心しなさい、アンタには関係ないわ」
腕を組み胸を反らして、見下すように伊達と呼ばれた男を見る夏海。
何者だキサマ……
ふとクーを見ると全然興味なさそうに二人を見ている。
空 「夏海、話がしたいなら私達は先に行きます」
そう言うと俺の手を握って歩き出すクー。途端にざわめきが頂点に達する。
やっぱりこの二人と関わるとろくな事にならないなぁ……
公人「何かかなり目立ってない?」
夏海「こらーっ、クー。勝手に公人連れてくな──!」
目の前の男を無視して俺の腕を引っ張る夏海。
公衆の面前ではヤメヤガレ!
公人「二人とも離せって。俺は目立つの嫌いなんだよっ」
流石に恥ずかしいので少し強めに二人を振りほどく。
空 「私達には関係ないのですから夏海に任せましょう」
と腕を組むように引っ張る。
夏海「この半分くらいは私じゃなくてクー目的でしょ。勝手に人のせいにしないで頂戴」
負けじと反対の腕を引き寄せる。
空 「私はそんな事に興味ないです。話しかけられたのは夏海ですし」
夏海「別に名指しじゃないから関係ないわよ」
両方から腕を引っ張られる俺。大岡裁きじゃないし離してくれないだろうなぁ……
08-02
公人「……だから俺を巻き込むなよ」
何か人がどんどん集まってくるし二人は話を聞かないし、どうしようかと考えていると先程の男がプルプルと震え、今にも爆発しそうになっていた。
公人「あ〜。さっきの人が何か壊れそうだけどいいのか、放っておいて?」
空 「私には関係ないのですから構いません」
夏海「いいのよ、あんなの放っておけば!」
言い切りやがった。最低だよキサマら……
伊達「そこの男! 俺と勝負しろっ!」
公人「はい?」
周囲のざわめきが歓声に変わった。
ぉぃぉぃ、また勝手に俺の関係ないところで話が進んでるよ……
空 「伊達さん。今、何と言いました?」
夏海「内容によっては容赦出来ないわね」
伊達「二人に纏わり付くゴミを処分するのが俺の役目だ!」
公人「あ〜。申し訳ないんだけど、纏わり付かれてるの俺だし」
伊達「黙れ! 俺と勝負して勝てたら話くらいは聞いてやるっ!」
つぅか、俺が勝ったら話聞いてやるのは俺にはならないのか?
公人「すまん。俺、頭痛くなってきたし帰るわ」
空 「大丈夫ですか? 帰り道に倒れてはいけませんので私がお送りします」
夏海「仕方ない。今日は帰ろうか〜」
三人して踵を返し歩き去る。
だが、男は衛星のようにこちらの周りを旋回すると立ち塞がる。
変なところで律儀だなアンタ……
クーは俺達に止まるように腕で制すると数歩前に進む。
空 「邪魔ですね。公人さんがアナタを倒したら、以降絡まない事を誓いなさい」
初めて聞くクーの命令口調。
う〜ん怒っていそうだなぁ。つぅか、俺が戦うのって決定してるのか?
伊達「そんな軟弱な男に俺が倒される事などありえない!」
空 「そこまで言うのであれば戦って勝ってみせなさい」
夏海「公人、右足を伸ばしたまま力を入れなさい」
そう言うと軽く足を引っ掛け背中を押す夏海。転倒しそうになる身体を立て直すために数歩進んだ時、クーが横から音もなく、滑るように近づいて来た。
08-03
目の前からは突進してくる男、横からはクー。
ぶつかると思った瞬間重力が逆転した。
ゴッ、という音とともに右足の踵に鈍い痛みが走る。
気が付くと、クーに背中から抱かれるような形で普通に立っている事に気付く。
公人「あれっ、何が起こったんだ?」
夏海「残念ながら公人の勝ちみたいね。伊達が気付いたら、公人に纏わり付かない
ように言っておきなさい」
夏海が周りの連中に向かって言い放つ。
何が起こったのか理解できないが、足元にさっきの男が横たわっている。
空 「どこか痛む箇所とかありませんか?」
心配そうな表情でこちらを伺う。
公人「ん、特に痛くないよ。つぅか俺、クーに投げられた?」
空 「はい、申し訳ありません……」
小さくなって頭を下げてくる。どうしてクーが謝るかなぁ。
公人「クーのお陰で怪我一つなかったよ、ありがとう」
空 「あ、はい。ですが、私達のせいで公人さんを巻き込んでしまいましたので……」
夏海「ほら、いちゃついてないで帰るわよ!」
強引に俺と腕を組むと引っ張る。それに合わせてクーも反対の腕に絡まってくる。
そのまま男の横を通り過ぎる。
夏海は踏む。
後の方から伊達さーんとか踏んで〜とか聞こえてくるが、係わり合いになりたくないのでホンキで帰る事にする。
公人「で、さっきの何?」
素朴な疑問をぶつけてみる。
夏海「何か親衛隊とか言ってたかな。前々からウザイと思ってたのよねぇ」
空 「親衛隊ですか。夏海は凄いですね」
夏海「何言ってんのよ、半分はアンタ目当てでしょ」
空 「そうなんですか? 興味ないので知りませんでした」
あ〜、やっぱり周りの男どもは放っておかないよなぁ。
夏海「公人。アンタ、何か失礼な事考えてない?」
コイツは被害妄想が強いな…… と、言われた後で失礼な事考えた。
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