R15指定 長編SS
第二章 第三話 -通算 第二十二話-
第二十二話 小文字版
NEO UNIVERSE -III-
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22-01
上機嫌な二人を車に乗せ、軽く渋滞気味の道を神社に向かう。
人前で腕を組んだり抱き付かないように言い聞かせるのに数十分を要したが、その成果あって二人は渋滞気味の車内でも楽しそうにしている。
夏海「神社なんて行くの久し振りねぇ〜」
空 「そうですね。ここ数年行ってないです」
公人「そうなんだ。俺は毎年の恒例となってるけどな」
夏海「……巫女装束」
空 「…………」
途端に重苦しい空気が充満する車内。
夏海「クー」
空 「既に呼び出し中です」
感情を削り取れるだけ削り取ったような事務的な口調で会話する二人。
その一分の隙もない連携に口を開くのすら躊躇われる……
夏海「それで、巫女装束はあったの?」
空 「今調べて貰っています。記憶違いでなければ見た覚えがあります」
公人「……一体どこに電話してたんだ」
夏海「いい女には秘密が付きものなの。気にしなくていいわよ」
空 「私も、公人さんは知らない方がいいかと思います」
公人「そんなものか?」
夏海「知ったら絶対に後悔するから忘れなさい」
やけにはっきり言い切られる。
しかし、巫女装束を用意してるサークル活動って、普段何してるんだ二人は……
神社付近に用意された駐車場に車を止める。
早朝だと言うのに人でごった返し、まさに祭りといった感じだ。
空 「凄い混雑ですね。はぐれたら再会するのも一苦労しそうです」
22-02
夏海「公人。迷子にならでよね」
公人「ぉぃぉぃ、この歳で迷子とか恥ずかしすぎだろ」
熱気すら感じられる人ごみに圧倒されていると、両側から腕を組まれる。
公人「ちょっと待て。恥ずかしいから腕は組むなと言っただろっ」
空 「私は人の多いところは苦手なので迷子になりたくないのです」
夏海「公人がいなきゃ私たちは歩いて帰ることになるんだから離れられないの」
公人「腕を組んだりしないって約束で──」
空 「公人さんは私のことを本当は邪魔だと感じているんですか……」
夏海「公人ったらあれだけ尽くされて、それでもまだ足りないっていうわけ?」
公人「ごめんなさい。俺がすべて悪いので今は静かにしよう、うん」
抱き付かれてるのと変わらない距離で会話してる事もあり、周りから好奇の目に晒される。
しかも会話が聞こえるような距離にいた人たちは訝しげな視線を向けてるし……
夏海はいつもの笑みを浮かべると、頭を引き寄せて唇を重ねてくる。
公人「おまっ、こんなところでなんてこと──」
夏海「駄々っ子には お し お き」
気が動転しているところに二本の腕が首に回される。
気が付いた時には既に頭の向きを変えられ、クーと唇を合わせていた。
空 「申し訳ありません。我慢の限界が来てしまいました……」
クーはわずかに眉をひそめ、沈痛な面持ちで呟く。
その光景を見ていたにもかかわらず、夏海は俺に非難の目を向ける。
夏海「まったく、新年早々クーを悲しませてどうするのよ」
公人「すべての元凶は夏海にあると感じるのは俺だけなのか?」
空 「いえ、公人さんの傍にいるだけで冷静でいられなくなる私が悪いのです……」
さすがにこれ以上クーを放っておけないと感じ、深呼吸をして心を落ち着かせる。
クーの手をつかみ引き寄せると、空いている腕に絡み付かせる。
空 「……腕を組んでも宜しいのですか?」
公人「その代わり、あまりベタベタするなよ。俺は目立つの嫌いなんだから」
とは言っても今ですら充分に目立ってる。だが、このままでは更に状況は悪化する。
夏海は何故か密着するような形で腕に絡みつき、俺の横から顔を出してくる。
夏海「ほら、クー。公人のお許しが出たんだから存分に堪能しなさい」
空 「うぅ…… 公人さんは本当に優しい人です」
公人「取り敢えず移動しよう。
これ以上、衆人環視の中で目立つのは耐えられない……」
22-03
人波をかいくぐるように神社に向かう。
しかし、周囲から突き刺さる視線はどんどん酷くなっていく気がする……
左右の二人に向けられる視線とは正反対の憎悪、嫉妬に満ちた視線が俺を突き刺す。
公人「あ、あのさ〜」
夏海「今は我慢しなさい。今は、クーにとって特別な意味を持った瞬間なんだから」
夏海の方に目を向けると、色々な感情のこもった複雑な笑みを浮かべて囁く。
その対応に困っていると含みのある笑顔を浮かべ俺の肩に寄りかかってくる。
どうしようかとクーに振り向くと、軽く目を伏せるように穏やかで幸せそうな表情を浮かべ、正面を見詰めている。
声をかけるのを躊躇っていると、それに気付いたクーが幸せそうな笑顔を向ける。
空 「公人さん、どうかなさいましたか?」
公人「いや、クーが──」
夏海「幸せそうに世界作るのもいいけど、公人は構ってくれないと悲しいって〜」
腕にぶら下がるように上半身を傾けるとにんまりと笑う。
そんな夏海を見て呆けたような表情を浮かべるが、子供のように邪気のない笑顔を浮かべ腕に抱き付いてくる。
空 「こんなに楽しい新年を迎えるのは初めてです。公人さんと出会えて幸せです」
鳥居をいくつか抜けて、拝殿に着く頃には心身ともに疲れきっていた。
二人が嬉しそうに騒ぐ度に俺に向けられる視線は加速度を増して険しくなり、新年とは思えない呪詛まで聞こえてくる始末。
既に羞恥プレイを超えて、公開処刑に近かった。
公人「…………やっと辿り着いたのか? 遠い道のりだった……」
夏海「何馬鹿なこと言ってるの。普段から運動しないから疲れるのよ」
空 「疲れているのであれば座って休憩しますか?」
公人「主に外的要因による精神的な疲れだから気にしないでくれ……」
参拝の列に紛れ込めば、今より少しは周囲の視線も弱まると、それだけを期待して二人を促し先へ進んだ。
参拝も、二人がお賽銭の金額を張り合うという場面さえなければ至って普通に終了し、神社参拝のメインイベントの時間がやってきた!
22-04
夏海「急に元気になったわね、公人」
生暖かい視線を俺に向ける。クーは……あまり普段と変わらず、表情が読めない。
公人「おみくじ楽しみだなぁ〜」
夏海「クー、やっぱり公人は巫女属性高いと思うわよ」
空 「ふむ。巫女装束が早く見付かる事を切に希望します」
二人は完全に俺が巫女好きだと決め付けている。
まぁ、間違ってはいないんだが。
巫女さんを見る度に小突かれながらも三人でおみくじを受け取る。
ひと気の少ない場所に移動して開封した。
夏海「何この【女神】って……」
公人「は?」
空 「奇遇ですね、私も【女神】です」
見せて貰うと、普通なら吉とか書かれている部分に【女神】と大きく書かれている。
そして、二人の視線は俺の手元に注がれる。何かを期待しているようだ……
公人「まさかなぁ〜」
恐る恐るおみくじを開く。そこには【神】の文字があった。
夏海「何か作為的なものを感じるわね……」
その意見には大いに賛同する。
空 「それでも、公人さんとお揃いなので気にしません」
クーは嬉しそうな表情を浮かべると、おみくじを丁寧に折り畳んで巾着の中にしまう。
夏海はそんなクーを温かく見守る。
視線に気付くと苦笑いを浮かべ同じようにしまった。
夏海「まぁ、あまり出ないものみたいだし大切にしないとね〜」
公人「確かに周りの反応見ても、そうそう出るものじゃないみたいだしな」
おみくじを見て落胆する者、大吉だと喜ぶ声、その中には神だ女神だという声はない。
そうだとすると、本当に珍しいモノなんだろう……
22-05
空 「少し待ってて頂けますか? 今日は気分が良いので色々買ってきます」
夏海「そうね。公人、能楽堂で巫女装束を堪能してきていいわよ」
そう言うと返事も待たずに二人は社務所へ戻る。
二人の監視なく巫女さんを堪能する時間が与えられた喜びに、俺は軽いフットワークで能楽堂に向かった。
時間が経つのも忘れる幸福な時は、ウラシマ効果のおかげでごく短いものに感じられた。
夏海「堪能しているようね……」
公人「あ、あはは〜。おかえりなさいませ」
思わずしたてに出てしまうパブロフな俺。
恨みがましい目付きの夏海と、うなだれるクーが傍まで来ていたことに気付かなかった……
公人「クー、どうかしたの?」
空 「申し訳ありません。巫女装束を用意できるかと思いましたが、現在すべて出払っ
ているとの連絡がありました……」
夏海「新年早々そんなことはありえないんだけどな〜」
持って来られても嫌だが、実際に無理だとわかると少し惜しくなる。
しかし、二人が元気な方が俺としても嬉しい。
公人「俺は二人が楽しそうにしてくれていた方が嬉しいから、気にしなくていいよ」
二人とも料理の腕はいいとはいえ屋台のお菓子類は別扱いらしく、わたあめやあんず飴を嬉しそうに買い求める。
空 「わたあめ食べませんか? 甘くて美味しいですよ」
口元に差し出された わたあめに軽く口をつける。んむ、甘い。
夏海「はい」
にっこりとあんず飴を差し出す夏海。これも、甘い。
周囲の視線を気にしないようにのんびりと散策しつつ、駐車場へ向かう。
もう少しで駐車場に着くというところで、歓声、そして曲と歌が三人を出迎える。
公人「マイ…………」
そこには嫌な思い出しかなかった。
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