この状態の二人に勝てる見込みが全くないのは今日充分理解したので、最初に断っておく。
公人「背中流すだけだよな?」
空 「はい、それで構いません」
夏海「え〜〜、全身がいいんだけど〜」
公人「夏海の意見は却下」
壁際に歩いていく気配。後を確認したいが未だに裸だと困るので見る事ができない。
夏海「あ、ごめん。手が滑った」
頭から背中に冷えた液体が掛けられる。声が聞こえてから掛かったんだが、未来予知でも
出来るのか?
空 「いきなりシャンプーを掛けるのは感心しません」
と言って、手の平でシャンプーを背中に塗り始めるクー。
公人「ちょっと、それはマジでくすぐったいって」
夏海「折角タオルで身体を隠したのにそういう事言うわけ?」
その台詞を信じて後ろを向く。
公人「だからって手の平で洗われたらくすぐ──」
空 「ただ私は夏海と違ってハンドタオルなので、全身は隠せませんが」
クーの台詞は殆ど理解できなかった。なぜなら胸にタオルを巻いているだけだったから……
つい、凝視しそうになって慌てて夏海の方に目を逸らす。
夏海「見たいなら素直に見たいと言いなさいよ」
公人「時と場所ってモンがあるだろっ、こんな状態で見せられても困るだけだ!」
空 「では、その時と場所を教えて頂ければ存分にお見せします」
夏海「そうね、それを知らないとクーを出し抜けないわ」
公人「ぃゃ、そういうモンでもないんだけどね。つぅか、お前ら友達なら仲良くしろよ」
夏海「あら、女の友情なんて男が絡むと紙より薄いわよ?」
空 「安心してください。公人さんの事に関係ない事であれば今まで通り親友です。
それよりも、どの様な状態ならばいいのですか?」
身を乗り出して問い詰めようとするクー。キス攻勢によって少しは動揺しなくなったが、
今は胸をタオルで隠しているだけだ。見ないようにしても本能で視線が下がってしまう。
夏海「早く答えなさい。そうすれば楽にしてあげるわよ?」
楽にしてあげるって一体何する気だ……
公人「普通そういう事をするのは恋人同士とかそういう感じの関係だろ」
空 「では今すぐ恋人だと認めて下さい」
夏海「それいい考えね〜。今から公人は私の彼氏ね、決定」
公人「勝手に決めるなーーっ。大体二人とも認めたら二股になっちゃうだろ!」
顎に手を当てて考え込む二人。
タイミング、ポーズともにぴったり合っている。ギャグか?
空 「そういった選択肢があるのは盲点でした。しかし、夏海なら仕方がないです」
夏海「まぁ確かにクーと、っていう時点で間違ってるのよねぇ。仕方ないか〜」
おい、貴様ら。何か間違った方向に結論付けようとしてないか?
空 「不束者ですが、夏海ともども宜しくお願い致します」
夏海「その提案を認めてあげるんだから、平等に扱わなかったらどうなるか分かってるわね?」
勝手に結論付けて抱きついて来る二人。慌てて引き剥がす。
公人「だから、そんな提案してないし。離れろって!」
不満を隠そうともしないし、態度とか違っても仲がいいとここまでシンクロするのか?
公人「大体何で俺なんだ? 正直な感想として、二人だったら誰でも選り取りみどりだろ。
何の取り得もない俺に好意を寄せる理由が全く分からない」
空 「私は先程リンが推察した通りの理由です。真面目な性格で曲がった事が出来ない性格、
強引な手法も使いますが場を和ませる話術、困った人を放置できない優しさ。
挙げたらキリがありませんので一言で済まします。貴方の全てが愛おしいのです」
まるで最初から用意してた文章を読み上げるかのように、淀みなく言い切る。
これだけ完璧な人が好きだと言ってきて、戸惑うなと言うのが間違いだ。
返答のなかった夏海に視線を向けると、夏海は視線を外す。
夏海「クーが言ったのと同じ。ってのじゃダメか…… 公人は容姿やスタイルだけ見てる
ヤツらと違うし、女を道具やアクセサリーくらいに思ってるわけじゃないでしょ。
私達はそういうのに敏感なの。対等に付き合えないなら付き合う必要がないだけよ」
空 「夏海にここまで言わせておいて逃げるつもりですか?」
夏海「クー。大丈夫、心配しないで。公人はそんな男じゃないわ」
お前ら退路絶つのホント上手いよな……
公人「分かった。だけど洗って貰うのは上半身だけだからな。」
空 「私が言いたいのは恋人という関係についてです」
そろそろ風呂から出ようよ、マジで。
公人「じゃぁ正直に言おう、クーも夏海も俺には勿体無いくらいの女だ。そんな二人に
同時に告白されて片方を選ぶなんて出来るほど、俺は器用じゃないんだ。
今までそういう目で見てた訳じゃないしな」
夏海「じゃぁ選ばなければいいじゃない。私はクーだけなら構わないわよ」
公人「お前は人の話聞いてないだろ…… 一人でも持て余すのに二人ともなんて無理」
空 「私はそうは思いません。二人でも公人さんに釣り合いが取れていないのです。
ですが、他の女性に奪われるのは我慢ならないので夏海以外は許せません」
理解不能だ。ほぼ完璧と思われる美人二人と平凡な男一人で釣り合うなんて……
夏海「私達はそれだけの価値が公人にあるって言ってるんだからいいじゃない」
空 「では、公人さんが私達二人に釣り合えると思えるように自分を磨いて下さい。
私達はそれに見合うように努力するだけです」
夏海「結論が出たところでおねぇさん達に全て任せなさい、悪いようにはしないから」
公人「だが断る」
憮然とする二人。これだけは譲れないので俺としても絶対に引けない、つぅか引かない。
沈黙を破ったのはクーだった。ふふ、と軽く笑う。
空 「公人さんのそういうところに惹かれるのです。さぁ夏海、これ以上話すのなら
お風呂を済ましてからにしましょう」
夏海「仕方ないかぁ。でもこれだけは覚えておきない。公人は絶対に私を好きになる」
公人「どこからそんな自信が出てくるんだ……」
空 「それは夏海ですから。では、私が背中と頭を担当しますから夏海はそれ以外
の部分をお願いします。」
夏海「聞き捨てならない台詞ね…… まぁいいわ、頭と背中以外ね〜」
夏海はニヤリとしか表現できない笑顔で、手をわきわきさせて近づいてくる。
公人「頼むから手の平で洗うのだけはやめてくれ」
空 「では、これを使って下さい」
何の躊躇もなく胸に巻いていたタオルを夏海に手渡す。慌てて二人に背中を向けた。
公人「クー、頼むから俺の目の前で無闇に肌を晒さないでくれ……」
空 「私は公人さんなら構いません。それにさっきから夏海の方に視線を向けていたので
大丈夫だと判断したのですが……」
公人「胸にしかタオル巻いてないからクーの方を見られるわけないだろっ」
夏海「じゃぁ私はタオル巻いてるし、たっぷり堪能して貰わなきゃね〜」
嬉しそうだな、夏海……
空 「では、夏海が公人さんを洗っている間に、自分の背中以外を洗っておきます」
公人「え、だってタオルもうないんじゃなかったっけ?」
夏海「ボディブラシくらい置いてあるわよ」
一瞬の思考停止。多分脳波までフラットだったろう。
公人「ボディブラシがあるならそれを使えばよかっただろっ」
夏海「相変わらず馬鹿ねぇ、ボディブラシ使ったら身体を洗ってあげる意味ないじゃない」
まぁ確かにそうなんだが。
空 「本来なら素手で洗って差し上げたいのを我慢してタオルで使うのですから」
公人「あ〜〜〜、俺が悪かった。タオルで洗って下さい」
夏海「は〜い、腕を出して〜〜」
俺の正面に座る夏海。
公人「待て、その格好は俺の精神状態に著しい変化を及ぼす。せめて横からとか──」
夏海「いちいち反対側に回ったりするの面倒じゃない、お望みなら後から洗うけど?」
背中からだと胸が当るだろうが…… どうしようか悩む。
夏海「いいから腕を出しなさい。ぐだぐだしてると凄い事するわよ!」
空 「夏海、凄い事お願いします。後学の為に研究させて下さい」
公人「ちょっ、凄い事しないから! つぅかお願いだからするな」
夏海「今から公人には発言権なし」
無理矢理腕を掴み引っ張る。バランスを崩されるが何とか持ちこたえた。
お互いに前傾姿勢になったため、目の前にバスタオルで強調された夏海の胸が。
公人「ばっ、お前いきなり引っ張るなっ。突っ込みそうになっただろ!」
夏海「はい、ペナルティ一つっと」
不安定な体勢のため軽く引っ張られるだけで、簡単に夏海の腕の中に取り込まれる。
そのまま顔を上げさせられ唇を奪われる。……普通逆だよな?
空 「さすがは夏海。勉強になります」
素直にレクチャーだと勘違いしてるクー。
夏海「次文句言ったらこんなモノじゃ済ませないからね」
仕方なく要求通りに洗って貰う事にした。夏海が腕を動かす度にバスタオルの中の胸が
揺れ、目の行き場を失う。仕方なく視線を彷徨わせていると夏海の太股に目が……
マズイって! 見えそうで見えないというチラリズムに取り込まれそうになる。
空 「ふむ、そういう何気ない誘惑の方法も効果的のようですね」
って、クーも冷静に分析してるし!
夏海「むぅ、やっぱり無言でいられても嫌な感じねぇ。前言撤回、喋ってよし」
公人「すまん、俺が限界だ。早く開放してくれ……」
空 「いえ、まだです。しっかりと綺麗にして貰って下さい」
夏海「クーの頼みじゃ断れないわね。さ、反対の腕出して」
公人「開放して頂きありがとうございました」
心の底から感謝の意を述べる。それに対して夏海の冷たい視線。
夏海「さぁ、私の身体を磨かせてあげるわ。感謝しなさい」
貴様は一体どこの女王様だ……
空 「背中だけでも洗って頂ける約束でしたよね?」
夏海「クーめ、余計な事を…… まぁいいわ、丁寧にじっくりと時間を掛けてね〜」
そう言うと背中を向け、挑発するようにゆっくりとバスタオルを外す。
くっ、ここで負ける訳にはいかない。今まで受けた気持ちい…… もとい、恥ずかしい
虐待の屈辱を晴らすチャンスは今しかない。
しかし、まともに目を向けたら夏海の思う壷だ。実際、抜群のプロポーションだし
背中を見てるだけでヤバイ。
夏海「公人く〜ん、まだぁ〜〜?」
公人「変な声色使うな」
手渡されたタオルに付いた泡を指に取り、軽く背中をなぞってやる。
夏海「っつ! まっ、公人。いい度胸ね……」
空 「ふむ。あの反応、これは使えそうですね……」
もしかして自爆したか?
公人「すまん、今のギャグ。なかった事にしよう。クーも分かった?」
空 「後は実践のみです」
夏海「次の機会を楽しみにしてなさい。おねぇさんを怒らせるとどうなるか教えてあげる」
出来るだけ夏海の背中を見ないよう、力を入れ過ぎないように気を付けながら洗う。
公人「はい、終了。後は自分で洗ってくれ」
夏海「え〜、もう終わり〜〜?」
物凄く不満そうな声。だが断る。
公人「はいはい、さくっとクーに変わって」
くるりと正面を向く夏海。勿論タオルは巻いていない。
軽くパニくってる隙に引き寄せられ、顔を胸に埋められ頭にキスされる。
混乱が頂点に達して何をすればいいのか分からなくなったが、何とか強引に引き剥がす。
夏海「ちょっと痛いって」
公人「…………夏海、マジでヤバイからやめてくれ」
夏海「はぁ〜〜い」
やる気なさげに返事をしながらクーの方に向かう。クーもぶつぶつ何か言ってるし。
空 「……かなり使えそうですが、私にはあそこまでの破壊力があるのかどうかが」
ぃゃ、クーは充分破壊力あるからやめてくれ……
空 「では、背中から洗いますね」
公人「クーだと安心して洗って貰えるよなぁ……」
しまった、気持ちよくてつい本音が漏れてしまった。
地底から響くような怨嗟の声が聞こえてくる。
夏海「ま〜さ〜と〜く〜ん? 夏海おねぇさまに対して何か言いたい事があるのかな〜?」
公人「イエ、ゼンゼンアリマセン」
空 「はい、続いて髪を洗いますので目に入らないように気を付けて下さいね」
マイペースに手を進めるクー。やはり侮れない。
沈黙したままで洗い続ける。かといって重苦しさはなく安心できるような沈黙。
夏海「むぅ、二人だけで雰囲気出しててずるい……」
夏海がこの萌えに興味を持ったようです。
ゆったりとした時間が流れて、最後にクーは髪に付いた洗剤を洗い流す。
空 「終わりました。私の背中も洗って頂けますか?」
公人「それじゃ目を瞑ってるから俺の前に座って」
空 「…………座りました」
薄目を開けてクーを確認する。夏海より若干小柄で華奢な身体つき。肌もきめ細やかだ……
夏海「こほん!」
やばっ、夏海がいるのに少し見惚れてしまった。
タオルにボディシャンプーを掛け、クーの背中を洗い出す。
公人「痛くない?」
空 「大丈夫です。もっとも公人さんがしてくれるなら、どんな痛みにも耐えられます」
聞きようによっては最も危険な発言。実際、夏海産の怒りの波動が強くなっているし。
夏海の場合はフェロモンが強すぎて直視出来なかったが、クーはフェロモンと保護欲を
掻き立てる雰囲気がバランスよく、もっと見たい衝動に駆られる。
と、考えている間に洗う部分がなくなってしまう。
公人「はい、しゅ〜りょ〜〜」
夏海の手前、少し冗談っぽく言っておく。
空 「ありがとうございました」
夏海「……公人? 一体何考えていたのかしら、おねぇさんに教えて貰えない?」
むぅ、なぜそう勘が鋭いんだ…… 出来るだけ感情を出さないようにしよう。
公人「一体何のこと?」
夏海「誤魔化しても声のトーンで丸分かりなんだけどね」
恐ろしさのあまり硬直する。クーは何がなんだか分からず肩越しに夏海を見ているようだ。
公人「ま。まぁ、そろそろ風呂から出ようか……」
空 「そうですね、また湯船に入るとのぼせそうです」
と言って振り向きそのまま身体を傾けるとキスしてくる。
空 「背中を洗ってもらうというのが、こんなに気持ちいいとは思ってもいませんでした。
嬉しかったです、またお願いしますね」
夏海「ふぅ〜ん、何か約束でもしたのかな〜。後でゆっくり聞かせて貰うからね」
どうして修羅場しかないのだろう、と頭を抱える秋の夜長。
結局二人には先に上がって貰い、少し湯船に浸かる事にした。今行ったら着替えを見たり
見られたりしてしまうし、髪を乾かす手間もあるだろうから。
この家に来てリラックス出来た2回目のチャンスもすぐに終わる。服着るくらいだしなぁ。
空 「着替え終わりました。お風呂から出ても構いませんよ」
夏海「あ、そうだ。服全部洗濯しておいたから」
何? 聞き捨てならない言葉を聞いた気がして問い詰める事にした。
公人「間違いだと思うんだけど、服を全部洗濯したって──」
夏海「そうよ。耳は正常みたいね」
公人「それじゃ、風呂から出ても俺は裸になるだろ」
空 「大丈夫です、安心して下さい。私がお風呂の用意をした時にタオルケットを用意
しておきました。今日はそれで我慢して下さい」
相変わらず俺の悩みとベクトルの違う返答。狙ってないかと何度思った事だろう……
まぁ仕方ないので出ようとすると脱衣所に人の気配。
公人「もしもし? そこに誰かいらっしゃいますか?」
空 「はい、二人ともいます」
夏海「早く出てきてよ、身体を拭いてあげようと待ってるんだから」
公人「頼む、それくらい自分でやらせてくれ」
夏海「じゃぁ交換条け──」
公人「さっさと出てけ」
渋々出て行く二人。マイペースすぎて対処に困る…… しかも二人だしなぁ。
用意してあったバスタオルで身体を拭き、タオルケットをまとう。
姿鏡に写る自分を見て鬱になる。イブニングドレスかよ……
取り敢えず非常時の為に緩めに巻き直す。このままで済むわけないしな。
公人「うゎぁ、人前に出られないって……」
そうこう試行錯誤していると扉がノックされる。
空 「かなり時間かかっているようですが、何か問題でもありましたか?」
夏海「公人が来るのを待ってるんだから早く〜」
公人「あ〜何と言うか、タオルケット以外に何かないか?」
空 「毛布とかシーツくらいならあるのですが、肌触りや生地の材質を考えると──」
そうさ、今日はハッピーでアンラッキーな日なんだ。
諦めて扉を開け廊下に出る。一瞬の沈黙の後、笑い出す夏海。
夏海「それいいっ。公人、アンタ明日からその格好に決まりね! ね、クー」
空 「はい、公人さんは何を着ても似合います」
公人「…………褒めてない。つぅか嬉しくない」
しかし、クーは結構ホンキで似合うと言ってる気がするんだが気のせいか?
夏海「さぁ、部屋に行きましょ。もう準備は出来てるんだから」
公人「準備って何の──」
空 「パジャマパーティだそうです」
それは嫌味か?
パーティ会場はクーの部屋だという。多分夏海の部屋には三人入れないのだろう。
いや、勘なんだけどね。言ったら何されるか分からないし言えないが。
部屋の中央にあったであろうテーブルは壁際に立てかけられ、その位置にお菓子や料理、
ティーセットが置いてある。つぅか、こんなに並べるならテーブル片付ける意味あるのか?
空 「好きな場所に座って下さい」
タオルケットを巻いているので座りにくいが何とか座ると、紅茶を差し出される。
アフタディナーティーみたいなモノらしい。
夏海「では、公人の入居祝いを兼ねて乾杯〜」
公人「ちょっと待てーー! 入居って何だ入居って!?」
夏海「ん? お風呂でクーと二人きりの時に決めたらしいじゃない」
空 「公人さんはあのお風呂がいたく気に入られたそうです」
数十分前の事を思い出そうとするがあまりにも衝撃的な場面が多く、そういった会話が
思い出せない。
公人「確かにいい風呂だなぁとは言った気もするけど、入居するとは言ってないと思うけど」
意に介さずといった風情でこちらを向くクー。
空 「まずは乾杯です」
夏海「乾杯〜〜」
公人「……乾杯。で、実際言った覚えがないんだけど」
空 「言いましたよ。思い出せなければ 陸海空/05
05-07 を見てきて下さい」
そういう事言うな。
夏海「まぁクーが言うんだから間違いないんじゃない。公人は覚えてなさそうだし」
公人「そりゃ今日はあんな衝撃的な事ばかり起きてるし、細かい事覚えてないけど……」
クーを見ても冷静に紅茶を口に運んでいるだけで、嘘なのか本当なのか判断が付かない。
空 「私の言葉が信じられませんか?」
公人「そういう訳じゃないけどさぁ、ここって女性三人だけで生活してるんだろ?
そんな所に俺が入って来ちゃマズイだろ」
夏海「実質二人だし、勿論クーも私も入居は歓迎するわよ」
空 「空き部屋もありますし、家賃も食費も光熱費すら要りません。しかもお風呂は大きく
こちらの方が大学にも近いです」
公人「うぅ……」
夏海「しかもこんな美人が二人も住んでるし。まぁ、後の一人はどうでもいいわ」
滅茶苦茶酷い事言ってないか?
空 「実際、男手がないのは結構痛手なので、お願いしたいのですが」
夏海「荷物持ちとか痴漢、泥棒対策とかね。これでも苦労してるんだから、そういうのを
引き受けてくれるならお金は要らないけど」
すがるような目でこちらを見る二人。た、確かにそうなのかも知れないよなぁ。
これだけの美人が女三人で住んでるんだから、色々大変かも知れない。
公人「……そう言われると断る理由がないんだけど、何か引っかかるんだよなぁ」
空 「疑うのは当然です。ですが夏海の言ってる事も理解して頂けると嬉しいのですが」
夏海「公人って困ってる女性を見ても手助けしないの?」
公人「……分かった、その条件はこちらとしても嬉しいし、二人。いや、三人のためにもなる
っていうのならここに住まわせて貰うよ」
その言葉を聞いて頷きあう二人。その、何だ。無性に怪しいんだが……
公人「何か隠してないか?」
空 「隠すと言うより論点をずらしただけです」
夏海「お風呂が気に入った、入居しないかって部分は合ってるわよ」
何事もなかったかのように紅茶を飲む二人と呆然とする俺。
公人「詐欺だーーーー!」
空 「何と言われようと私は公人さんと一緒に暮らせればそれで満足です」
結局話し合いは一方的にスルーされて同居する事になった……
入居祝いを兼ねたパジャマパーティ?が終わる頃には時刻は0時を回っていた。
夏海「クー、大丈夫?」
空 「はい…… 公人さんといられるのですから我慢します……」
公人「眠そうだし無理せず寝た方がいいよ」
夏海「はいはい、クーはベッドに上がって」
無理矢理クーの背中を押してベッドに座らせる夏海。
空 「まだ寝たくないです。もっと話を……」
夏海「公人」
公人「ん?」
手を引っ張られベッドに座らせられる。かなり不安だ……
夏海「横になって腕を広げて、クーに腕枕してあげなさい。それなら寝るでしょ?」
空 「それなら喜んで……」
本当に辛そうなクーを見て、これくらいは仕方がないと自分に言い聞かせる。
公人「クー、おいで」
空 「失礼します……」
ゆっくりと横になると腕を枕にして呟く。
空 「今日は本当に楽しかったです。こんな毎日が続けば私は……」
そのまま言葉を続ける事が出来ず眠りにつく。
夏海「最後くらいは格好いいところを見せるのね〜」
意地の悪い笑いを浮かべ部屋の電気を消す夏海。
夏海「私の為の腕枕〜〜」
公人「……はいはい」
腕に頭を乗せて軽く抱きつく。そのまま言葉を発しないが起きているのは気配で分かる。
夏海「…………公人、色々と厄介事を押し付けて悪いと思うけど我慢してね。唯一つだけ
覚えていれば後は忘れていいから。私達にとって公人は特別なの」
長いようで短い沈黙。
夏海「起きてるんでしょ、それくらい分かるんだから」
公人「あぁ…… 起きてる」
夏海「ならいいわ。おやすみなさい、私の大好きな公人……」