「ありがとう。手伝ってもらえたおかげで短時間で集められたよ」
「いえ、僕のせいで先輩の邪魔してしまったので…… 本当にすみませんでした」
書類を集め終わり、立ち上がった先輩と向き合う。
「気にしないでいいから。 それと、お願いがあるのだけど、手を触らせてほしい」
先輩のその言葉に驚いたが、憧れている先輩に触れるチャンスは今を除いて全くないのがわかってるので、自分でも真っ赤になってるとわかりつつ手を差し出す。
当の先輩は僕の手をくまなく触りながら、眉を寄せて何か考え込んでいる。
「もう一つ頼みたいのだけど、私の手を握ってくれないかな?」
「ええ──っ! ……あの、ここでですか?」
今までも人目はあったが、先輩に手を調べられている間にだんだん人が集まってきた気がするので、僕としては本当は走って逃げたいくらいだ。
なんか周りから凄い目付きで睨まれてるし……
「そうか、すぐ済むから一緒に来てもらえるかな」
先輩に手を引かれ生徒会執務室に連行された僕は、生徒会役員の矢のような視線に晒されていた。
「桐生。その子は何?」
「私の中学時代からの後輩。 そんな事はどうでもいい、手を握ってほしい」
額に青筋を立ててこちらを睨んでいる先輩──多分、生徒会長──を軽くいなすと、さっきまで僕の手を握っていた手を差し出してくる。
その場にいる全員の視線を痛いほど感じながら、恐る恐る握手するように握ってみる。
「──っ! これは、なんだろう。 今まで感じたことがない感覚がある……」
僕が手を握った途端に軽く身体を震わせ、桐生先輩は呟く。
「あのー。もしかして、この人は先輩の彼氏ですか?」
その言葉に執務室の空気が凍り付く。生徒会長は桐生先輩とは違った意味で震えている……
「そうか、今やっとわかった。私は君に惚れてしまったのか……」
その言葉に椅子を倒しながら幽鬼のように立ち上がる人と、歓声を上げて盛り上がる人。
「こんな気持ちは初めてで何と言えば伝わるのかわからない。私と付き合ってくれないかな」
桐生先輩は、その両手で優しく抱き締めてくる。そして怒号と歓声は最高潮に達する。
答えは決まってるけど、それを言う勇気が僕にあるだろうか……