銀世界 Lost Number


 陽も落ち、夕闇が世界を覆いつくした中を二人で歩く。
 隣を歩いていたクーが足を止め、柔らかな光で照らされた川原を見つめる。
「あれは鈴虫かな」
「もう秋になるんだな」
「そうだね。キミと出合った季節がまた訪れた」
「クーと知り合って二年になるのか」
「ボクは知り合いって関係で終わらせる気はないけどね」
「う…… それはさておき、急に涼しくなったな」
「またそうやって話をはぐらかそうとする」
 クーは不満そうな声で軽く口を尖らせる。
「まあいいよ、時間まだあるでしょ?」
「特に急ぐ用事もないけど」
 身体の向きをこちらに向けると軽く微笑む。
 その動作で揺れた髪が柔らかな光の中でふわりと宙に舞い、
まるで妖精が舞い降りたのかと錯覚させる。
「それじゃ、少しゆっくりしていこうか」
 そう言うと俺の手を引いて川に向かって歩き出した。

「こうして虫の音をただ聞くのもいいものだね」
「そうかもな」
「ボクは隣にキミがいてくれたら何でもいいんだけど」
 その言葉とともにクーは腕に腕を絡ませ頭を傾けてくる。
「うーん、やっぱり腕を組む方が好きかなー」
「ちょっと待て、普通男友達とは腕組まないだろ」
「そうかなー? でも好きな相手だったらいいと思うよ」
「好きとか嫌いとか簡単に言うなよ……」
「嫌いな相手だったら腕も組ませてもらえないよね?」
 俺は間近に見る伺うようなクーのまなざしに言葉が出ない。
 そして、わずかに微笑むと腕を抱きしめるように力を入れてくる。
「でもこういう友達でも恋人でもない微妙な関係っていうのもいいかもね」



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© ◆ForcepOuXA


2007-10-12 作成
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