空「大丈夫ですか、公人さんっ」
公人「大丈夫、大丈夫だから興奮しないで。それよりも荷物拾ってきなよ」
息苦しかっただけで特に問題ないので、すぐに立ち上がる。
夏海「荷物拾ってきたわよ」
クーは俺の袖を掴んだまま俯いている。
公人「クー大丈夫? あ、そういえば……」
慌てて先程落としてしまった袋からケースを取り出す。
蓋を開けると、記念にと買ったティーセットは修復出来ないくらいに割れてしまっていた。
クーは悲しげな瞳でそれを見つめると欠片を数個取り出し直そうとする。
だが、一度壊れた磁器はそんな事では直らない。
夏海「クー……」
クーは磁器の破片を握り締める。
手の平から数滴血が落ち始め、慌てて二人で手を開かせようとする。
公人「クー、やめろよっ。そんな事してもカップは直らないんだぞ!」
夏海「馬鹿な事はやめなさい! カップは買い直せばいいんだからっ!」
何とか手を開かせ血に濡れた破片を取り出す。
幸い傷自体は深くないようだが、クーが放心状態のままなのが気になる。
夏海「今は取り敢えず喫茶店に行って手当てするわよ」
二人してクーを支えると喫茶店『せしる』まで歩き出した。
益田「いらっしゃ〜…… クーちゃんどうかしたの!?」
夏海「説明は後でしますので救急箱貸して下さい」
マスターは救急箱を夏海に手渡すと、数枚の濡れタオルを持って来てくれた。
濡れタオルで血を拭うと、クーの小さく綺麗な手に数本の傷跡が現われる。
夏海は傷口を消毒し、傷薬を染み込ませたガーゼを当てると包帯を巻く。
夏海「大丈夫? 痛くない?」
クーはこくりとただ頷く。
益田「今日は奢るからゆっくりしていって」
と、紅茶をそれぞれの前に置いてカウンターに戻る。
俺がクーにしてあげられる事が、実はホントに少ない事に気付いた瞬間だった。