雛鳥にエサを与える親鳥の心境というモノを感じた。与えても際限なく要求してくる唇。
夏海と違い上限のないクーの場合、要求がエスカレートする事は少ないが、止めなければいつまでもキスを求め続けてくる。
あっちが魔女でクーが悪魔なのかも知れない……
これ以上要求に応じていると理性が持たなくなるので、クーの頭を胸に抱きかかえると少し強めに抱きしめる。
不満げな声が聞こえるが、しばらく頭をなでていると頬をすり寄せるように抱き付いてくる。
こうしてると可愛いんだけどなぁ、と行為がエスカレートしないことを祈り続けた。
益田「お疲れさま〜。また宜しくね〜」
バイトも無事終了し、マスターに見送られながら車に乗り込む。
空「アルバイトというのも楽しいものなのですね」
夏海「クーにとっては誰にも邪魔されず、公人とイチャつけるのが楽しいんでしょ」
空「はい。それが一番の理由ですが、お菓子作りも楽しいです」
公人「俺は疲れた。特に精神的な理由で……」
夏海「公人。そんな可愛いこと言ってると、おねぇさんが二人がかりで癒しちゃうわよ〜」
空「今日は公人さんに癒して頂けたので感謝の気持ちを込めて──」
公人「いやっ、今の二人の想いを知って癒されきりました! もう元気っ!」
車を巨大ガレージにしまい、屋敷の玄関ドアを開く。
夏海「おかえりなさい、公人。遅かったわね」
空「そうですね。待ち侘びましたわ、公人さん」
嫌な予感を感じつつ目を前に向けると、そこにはゴスロリで身を包んだ二人がいた……
公人「え〜と、ただいま?」
夏海「言葉がなってないわね。『ただいま帰りました、お嬢様』でしょ?」
空「夏海、厳しくするだけでは公人さんが萎縮してしまいます」
カツカツと靴音を鳴らして歩み寄るクー。って、編み上げブーツまで履いてるし!
俺の手を取ると胸元に引き寄せ、耳元に囁く。
空「おかえりなさい、公人さん。今日は疲れたでしょう」
公人「……昨日のボンネットで大体予想はついてた。でもな、室内ではボンネット被るな」
作者注
ゴスロリ:
ゴシック&ロリィタの略語。18世紀英国に端を発するゴシック文学と、ロリィタを融合させたムーブメントであり、どちらかといえばビジュアル重視のファッション。
ゴシック文学に見受けられる壮厳・享楽・退廃・吸血など、ネガティブなイメージが見受けられ、ロリィタ趣味とは相反する属性を持つ。
ロリィタパンクと似たアプローチ方法だが、スタンスが全く違うので注意が必要。
ボンネット:
襞付きの布で縫製したあご紐の付いた女性・子供用の帽子で、額を出し顔を縁取るように被る外出用の帽子。
ゴスファッションでは髪飾りとしてリボン、ハット、ボンネットを好む傾向がある。