無知無垢妹系ボクール


 折角の土曜日なのに、ただ一人暇を持て余した俺はぶらぶらと街を歩く。
 しかし独り者の居られる場所と言うのは意外に少ない。
 新年からブルーな感情で落ち込みたくはないので、仕方なく大型書店へ向かう。
 何か好みの本でも発売されているといいなぁと思いつつ。

 本棚に敷き詰められた遅山SF文庫。悪友どもに言わせると読みづらいとか、高いとか酷評ばかりだが、海外の一流作品ばかりなので面白いと思う。訳者次第なんだけどね。
 一冊ずつ手に取り内容を確認する。これも買っていこうかなぁ──
 突然うしろから抱き締められる感覚。
英子「ん〜〜、男お兄ちゃんだ〜〜〜〜」
 ギギギという擬音を発しながら首を後に向けると、近所に住む後輩の英子が周囲の目も気にせず頬ずりしていた。

男「お、お前何してるんだ……」
英子「頬ずり〜〜」
 英子腕を掴み引き剥がす。それでも周囲の視線がかなり痛い。
 その中に見覚えのある二人組の女の子がいた。英子の友達の美香と詩子だ。
 二人は、いたずらのバレた子供のような苦笑いを浮かべ、じりじりと後退を続けている。
美香「男先輩、後は頼みま〜す」
詩子「別に悪いこと教えてないですよ。何があってもそれは私たちのせいじゃ──」
美香「いらんこと言うな、バカ」
 詩子の脇腹を肘で小突く美香。あからさまに不自然な態度を取る二人。
男「え〜と、英子に何か悪いこと教え込ん──」
英子「ねぇ、ふぇらって何? 気持ちいいの?」
 本当に知らないのか、静かに無垢な瞳を向けていた。

 静まり返る店内。その場に居合わせた全ての人が動きを止める。
英子「ボクがお兄ちゃんにしてあげれば絶対振り向い──」
 手にしていた文庫本を投げ入れるように本棚に戻し、英子の口をてのひらで塞ぐ。
 二人は既に逃亡した後だった。

男「俺が本屋から出るまで一切口を開くな。わかったな」
 この場に英子ひとりで置き去りにできるほど悪人にはなれないので、英子の腕を掴み出口へと急ぐ。
英子「ふぇらしてあげたらボクにも──」
 俺は英子を小脇に抱え、空いた片手で口を塞ぐと、猛ダッシュで大型書店をあとにした。

 大通りから裏路地に走りこみ、人通りが少ないのを確認すると英子を降ろす。
 火事場の馬鹿力とはよく言ったモノだ。普段だったら英子を片手で持ち上げる事なんてできないだろう。
 当の英子はなぜ俺が慌てていたのかさっぱり分からないといった表情で息を整える俺の顔を覗き込んでいる。
英子「ねぇ、男お兄ちゃん──」
男「待て。 ……今度こそ、俺がいいと……言うまで。口を開くな」
 英子はこくこくと頷くと、犬のような瞳をこちらに向けながら小さな両手で口を塞ぐ。

 落ち着きを取り戻したところで、英子の耳元に小声で話しかける。
男「……さて、説明してもらう事にするが、間違ってもフェラとか言うな。分かったな」
 あまり理解したようには思えないが、真面目な顔でこくこくと頷く。
男「口を開いてよし」
英子「あのね。男お兄ちゃんがボクの事を子供扱いするのをやめさせるにはどうしたらいいかなぁって二人に相談したら、ふぇ──」
 英子をギロリと睨みつける。身を縮めて口を両手で塞ぐ英子。
英子「えっと…… してあげれば、一気に恋人同士になれるよ〜って。 言ってる意味が分からないって言ったら、男お兄ちゃんに聞け〜って」



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© ◆ForcepOuXA


2006-02-15作成 2006-08-24更新
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