英子はお行儀のいい仔犬のような女の子だ。言われた事はきちんと守るし、むやみに騒いだりする事もない。
ただ問題があるとすれば、致命的な世間知らず。はっきり言って知恵が足らない。
口さえ開かなければ冷静で落ち着きのある子として見られるのだが、一言話し出すと幼稚さが見え隠れする言葉が飛び出てくる。
幼馴染みとして色々世話を焼いてきたおかげで、英子からはお兄ちゃんと呼ばれ、英子の両親からは『いつ嫁に貰ってくれるのか』と再三問いただされる始末。
英子「ね〜。ボクは教えて欲しいんだけど、男お兄ちゃんも知らないの?」
男「……知らない」
ここはシラを切り通すのが得策に思える。
英子「う〜〜ん、お兄ちゃんが知らないんじゃ、お母さんに聞いてみようかな……」
男「ま、待て。思い出した! 今サクっと抜け落ちてた記憶が元に戻った!」
慌てて前言を撤回する。そんな事されたら非常にヤバイ。
英子「じゃぁ教えて。ボクは男お兄ちゃんが喜ぶ事をしてあげたい」
男「あまり大きな声でそういう事を言うな。教えるから少し黙ってろ」
こくこくと頷くと英子は両手で口を押さえる。
昔からの癖なんだが、そういう仕草が子供っぽいと言われるんだ。
しかし英子のよく通る声だと、誰もいない場所にでも行かないと大変な事になる。
かといって俺の家は母親がいる時間帯だし、危なくて英子を呼べもしない。
男「他に人がいる所だと誰に話を聞かれるか分からないし、どうしようかなぁ」
英子「今、ボクの家には誰もいないよ。男お兄ちゃん、そこでいい?」
まぁ危ない雰囲気にならなければいいんだし、それがベストの選択だと思う。
男「んじゃ、そうするか」
英子「うん、きてきて〜」
英子に促されて英子宅の玄関を抜ける。
英子母「あ、男君、いらっしゃ〜い。今日はデートだったの? いいわね〜」
男「あれ?」
英子「あのね、今日は男お兄ちゃんにふぇら教えて貰う──」
男「言うなーーーーーっ!」
英子母「あらあら、今日はお祝いね〜。男君、学生の間は避妊だけはしっかりね」
英子「あ、あれ? ボク、何か間違えたような気がする……」
その日から両家公認の恋人同士にされてしまった男。彼の受難は始まったばかりだ。