目の前で今、恐ろしい光景が繰り広げられている。
それは数人分とも思える食糧が、みるみるうちに金髪メイドの腹の中に納まっていく。
しかも急いでるように見えないにもかかわらず、物凄い速度で消えていく。
「さすがは『いじきたなきもの』 凄まじき健啖っぷりだな」
最後の一切れを口に入れると、金髪メイドは手にしたナプキンで丁寧に口を拭う。
「褒めても何も出ませんわよ。 ……久し振りに食事を堪能させて頂きました」
意地汚いって褒め言葉なのか? 相変わらず、邪神はわからない……
「用事が済んだのであれば、疾く帰るがよい。 我は貴様に構っている暇はない」
その台詞に気分を害したような表情を浮かべる金髪メイド。
「そうはいきません。 ワタクシは借りを作るのが嫌いですの」
「我が主と過ごす時間の邪魔をするなと言っている。 帰るがよい」
和解するかと思われた空気が徐々に剣呑になっていく。
金髪メイドは積み上げられた岩を見る。
「そういえば、何をなさっているのかしら。 我が家の壁を盛大に破壊し尽くすくらいだから、何か目的があって掘り進めているのでしょう?」
「まぁよい、それくらいは教えてやろう。 この島にある我がゆかりの地、九頭竜、別府湾、それらすべてに繋がる地下道。更には彼奴ら奉仕種族が生活する場を用意する。
我が主との蜜月をこれ以上邪魔されたくはないのでな」
クーは恥ずかしい台詞を淡々と口にする。 やはり邪神ってのは感性が違う。
「そう、事情は理解しましたわ。 それならばワタクシが手伝いましょう」
二人は感情を押し殺した視線を絡ませ微動だにしない。
「……食事は存分に要求するがいい」
「物分りがいいですわね。 貴女は暇を持て余して惰眠を貪っていなさい」
見下したような笑みを浮かべると金髪メイドは横坑に戻っていった。
「え〜と。 何、あの金髪メイドは?」
「悪い邪神ではないのだが、口が悪いうえに、暇さえあれば何か食べては怠惰な生活をしている」
悪い邪神じゃないって…… いい邪神がいるのか?
「ふふふ、まぁよい。 邪魔者はすべて消えた。これで心置きなく我が主と寝所をともにできるというもの……」
含みのある微笑を浮かべると俺の手を引いて屋敷に向かおうとする。
「おい、あの岩の山どうするつもりだよ。 崩れてきそうじゃないか」
「どんなことが起きようとも崩れることはないであろうが…… 主と暮らすための居城を建てるのもいいかもしれぬ。」
「居城って…… 日本の地盤にそんなの建てられるか──!」
「なぁに、ツントゥグアに任せればいい。 地上に瑠璃家を建てるのも悪くないであろう」
「ルリイエとか言われても俺にわかるわけないだろ」
クーは滅多に見せない優しい笑みを浮かべる。
「瑠璃家ならば主に無理をさせる必要もなくなる。 我が力を取り戻すに適した環境というわけだ。 無論、主は望む時に我を貪って構わぬぞ」
そう言って抱き締めてくる。
そして、俺はその抱擁を振りほどけない。
すべてはクーの美貌が、身体が、胸が、乳が、おっぱいが悪いんだっ!
「それだけではあるまい。 わかっているぞ、我が主よ」
……性格も含めて全部俺好みだっ!!