真なるクー -せいそうするもの-


 事の起こりはそう、ワタクシが屋敷を訪れたことから始まりました。
 玄関をはじめ、ロビー、廊下、応接室、食堂など、いたるところに放置されたゴミ。 壁際には塵埃がうっすらと積もっている。
 ワタクシが移動する度に足元をふわふわと綿埃が舞い踊り、まるで廃墟にでも訪れたのかとすら錯覚させるには充分すぎるロケーション。
 あまりの出来事に言葉を失っていたものの、こちらを見つめる視線にふと気が付いた。
 クー・トゥルーとその主が料理を手にし、インスマスが皿をテーブルに置こうとしている体勢のまま、時間が止まっているかのようにワタクシを見ていました。

「これは一体どういうことですの!?」
 食堂でのんきに朝食を口に運んでいたクー・トゥルーを厳しく問い詰める。
 それをこの色ボケ邪神ときたら、ワタクシを冷ややかに一瞥すると何事もなかったように人間にまとわり付き始めた。
「主よ、これは精がつく。 さぁ、遠慮せずに食べよ」
「そんなのばかり俺に食べさせてどうするつもりだ。 精がつくならクーが食べればいいだろ」
「我が食べても力は戻らぬ。 ……そうか、主は激しく求められるのが好みであったか。 ククク、今日は一日楽しく過ごせそうだ」
「前言撤回! これ以上激しいのはお願いだから勘弁して──」
「ワタクシを無視するなんていい度胸ですわね! 少しは話を聞こうという気に──」
「インスマス。 ツントゥグアが満足するまで食事を与えよ」
 クー・トゥルーが冷徹な視線をこちらに向けたところでワタクシの意識は途切れました。


「それで、何の用件があって我の邪魔をするのか聞かせて貰おう」
 ワタクシは、前に積み上がった皿の向こう側から聞こえる声に我を取り戻しました。
 しかし、ここは努めて冷静にナプキンで口元を拭うことで、何をしにきたのかと記憶の反芻を試みる。
「ワタクシに食事を用意すれば何でも許されると思ったら間違いですわよ」
「別にそこまでは考えてはいない。 ただ我の営みを邪魔をされるのが嫌いなだけだ」
 クー・トゥルーは その主の頭を胸に抱きいれ、肩をぺちぺち叩かれている。
「ともかく、この屋敷の荒廃ぶりを説明して頂きたいですわね」
 呆れたような目を一度こちらに向け、クー・トゥルーは胸元の主に問いかけました。
「何か問題があるのか? 主よ」
「う〜ん。 ちょっと埃っぽいかなぁ」
 そして、その横で頷くインスマスを見たときワタクシの視界が暗転しました。
「ちょっとではないですわ! こんな廃墟同然の屋敷にいて気にならないんですのっ!?」
「我は主がいれば何も気にならぬ」
「ゴミに埋もれて生活してるなんて、気でも違っているのではなくて!?」
「我にそんな趣味はない。 ゴミはちゃんと片付けてあるではないか」
 クー・トゥルーはそう言ってあごで壁際を指し示す。
 そこには壁を覆わんばかりにうずたかく積まれたゴミの山があった。




1.短編ページへ
2.続きへ


© ◆ForcepOuXA


2006-09-29 作成 2006-10-01 更新
携帯サイト トップページへ