「あ、君は──」
「出たわね! クー・トゥルーっ! 無防備にアタシの前に現れたこと、後悔しなさい!」
女主の台詞に被せるようにハスツゥンが叫ぶ。
「あれ? あなたは弁護士さ──」
それまで引きずっていた主をワタクシの胸に押し付けてクー・トゥルーが一歩前に進む。
「な、ななななんてことするんですのっ! 人間の分際でワタクシの胸に顔を埋めるなんて!」
クー・トゥルーは興を殺がれたといった風情で振り向き、哀れみを含んだ冷静な眼差しをこちらに向け口を開く。
「ツントゥグア…… 安心するがいい、貴様の胸では我が主は欲情できない」
「なんですってーっ! ワタクシの豊かな胸が貴女程度の胸に劣ると言いたいんですの!?」
「ちょ、ちょっと〜、アタシの話を──」
「胸は大きさだけではない。 張り、弾力、更には肌の質感をも考慮に入れるべきもの。
ただ脂肪が詰まってさえいれば満足するというものではない」
「ワタクシの胸が脂肪でぶよぶよだとでも言いたいのかしら!?」
怒りに身を振るわせるワタクシの胸を鷲掴みにすると、クー・トゥルーはかすかに表情を緩め、勝ち誇ったそぶりを見せる。
「なっ、なんですの! その可哀想なものでも見るような顔は!」
「すまぬ、主よ。 不快であったろう。 後で存分に我が胸を堪能するがよい」
「く〜〜っ、人間! ワタクシの胸は最高ですわよね!?」
その手をつかみ、ワタクシの胸に押し付ける。
クー・トゥルーも対抗するかのようにもう片方の手を自分の胸に導き揉みしだかせる。
「遠慮せずに言うがよい。 我の胸に勝るものはないとな」
人間如きにワタクシの胸を触らせるのも癪ではあるものの、この胸が劣ると言われては
引き下がる事はできない。
人間の手を覆うように掌を被せ、胸の感触を確かめさせる。
「えっと、あの〜。 この状況は……」
人間は真っ赤になって周りを見回し口ごもる。
「そこの二人! アタシを無視して何やってんのよっ!」
ワタクシのプライドがかかった崇高なる戦いを邪魔するように口を挟むハスツゥン。
「貴女には関係ないことですわ。 消えなさい」
そう言ってハスツゥン一行がいる部屋の床を消し去る。
「え? きゃあ────っ!」
床が突然斜面になったことで半数が闇に消え去る。
「あ、主〜〜! よ、よくも主を──っ!」
「今ならまだ主とやらを追えますが如何しますか? 今すぐこの道を閉じても良くてよ」
屈辱に打ち震えながらこちらを睨み付けてくる。
「バイヤヒート、主を追うわよ! 二人とも覚えておきなさいよーっ!」
ハスツゥンは捨て台詞を残して地の底を目指して去ってゆく。
ワタクシは人間に振り向くと優しく微笑みかける。
「さぁ答えなさい。 どちらの胸が素晴らしいのかを」
「二人とも──」
「主よ、どちらがいいのかはっきりさせてもらおう」
「……クーは至高の胸。ツントゥグアは究極の胸です……」
何が言いたいのかわからなかったものの、その言葉に気分を良くしたワタクシは掃除を再開した。
寝室から聞こえてくるうめき声すら心地よい音楽にしか聞こえない充実した日でした。