真なるクー -幸せを運ぶもの-


 リビングでソファに身をゆだねながら、テレビという文明の恩恵を受けていた。
 存在がホラーというインスマスたちも更に増えてきて、それに比例して様々な知識を持った者が集まってきたのだ。
 そのおかげで、今まで諦めていたテレビという文明を取り戻すことができた。

「ちちよ。 なぜあの木に物をぶらしゃげておるにょだ?」
「あれはクリスマスツリーといって…… 祭りのための装飾だな」
「しょうか、あの場所で祭りをしておるにょだにゃ」
 俺の膝の上に乗ったリトゥは、軽く頷きながら深々と座りなおす。
 テレビというものに初めてふれたのか、暇さえあれば電源を入れて何かしら見ている。
 そして疑問が湧くと、その都度 誰か捕まえて質問をぶつけていた。
 今日は その魔の手に俺が捕まったというわけだ。

 リトゥとテレビを見て過ごしていたその場に、大きな白い袋と、大きなクリスマスツリーを手にしたクーが入ってきた。



「子守りは退屈ではないか? 主よ」
 どうやって抱えているのか謎だったりするツリーを床に降ろすと、手にした袋をしげしげと見つめる。
「それはクリスマスツリーではにゃいか」
「そうか。 それで、この木は何に使うのか知っておるのか?」
「祭りのかじゃり付けを施した木だという」
「そうか。 それで、何の祭りなのだ?」
 リトゥはその質問に沈黙で答えると、困ったような表情を浮かべ こちらを仰ぎ見る。
「キリストという救世主の生まれた祭り?」
 そういった質問をされても特に宗教に詳しくない俺には答えようがなかったりする。
 クーはその答えが不服だったのか不満に眉をゆがめ、ツリーを抱えようとしゃがみこむ。
「そんな名も知らぬ輩の生誕祭なぞ 我には興味が無い」
「おいおい、持ってきたのに またどこか持って行くのか」
「華やかなので盛ってきたが興味が失せた。 捨ててくる」
「いやいや、ちょっと待て。 本来の祭りのことは知らないけどな、日本では家族や恋人、果ては友達同士などで集まって楽しく過ごすという──」
「そういうことは早く言うがよい。 それならば我も異教の祭りとやらに参加するのも やぶさかではない」

「ところで、それは一体どうしたんだ?」
「これはだな、モク…… 名前は忘れたがインスマスの一人が持ってきたのだ。 主と楽しむがよいとな」
 名前を言われても、外見的特長の似通った者たちを判別できるほどじゃないし……
「ははよ、しょの袋には何が入っているのだ?」
「我も渡されただけで中までは確認していない」
 そう言うと、袋の口から中を覗き込みながら赤い布の塊を取り出してきた。
「どうやら服のようだ」
 クーから手渡された服を広げてみると、どうやらサンタクロースの衣装らしい。
 しかし、どう見ても女物にしか見えない。

「女物みたいだし着てみたら? いつまでもスク水じゃ寒いだろ」
「我は暑さ寒さなど関係ないのだが、主がそう言うのであれば着てみるのも一興かもしれぬ」
 クーは衣装を受け取ると無造作に旧スク水を脱ぎだし、慣れない手つきでサンタの衣装を身にまとおうとする。
「な、なんでいちいちスク水脱いでるんだよ! その上から着ればいいだろっ」
 なぜ怒鳴られているのかわからないといった表情でこちらを見つめるクー。
「着替えるのだから服を脱ぐのは当たり前であろう」
「いや、スク水なら その上からサンタ服が着られるだろ?」
「これは我が正装であってスク水という名称ではない。 そして、我が正装はそれ単体で一個の衣装として成り立っている。 その上から別の衣装を着る道理はないであろう」
 言ってる事は正しいような気がしないでもないが、全裸でスク水を目の前に掲げながら言う台詞ではない。
「わかった。 俺が悪かったから早く服を着てくれ……」



「さて、着てはみたが。 どうであろうか?」
 普段スク水 ではなく、スク水に限りなく酷似した正装を身にまとっているクーの初めての衣装換えがコスというのはどうなんだろう……
 存在自体がレアだからそれはそれでいいのか?
「うん、なんか新鮮でいいかも」
「愚かにゃ。 われがわれである所以たる藍の衣。 それをにゅぎ去って何が真にゃるクーか」
「……よもや貴様に諭されるとは思わなんだぞ。 リトゥ」
「われ以外に誰がしょれを言えるものか。 退くがよい、今よりわれが真にゃるクーぞ」
「よくぞ言い切った。 我に盾突いた愚かさを、その身で充分に味わうがよい」
 サンタの衣装を盛大に撒き散らしてリトゥと対峙する全裸のクー。
 二人の いさかいを止めるべく俺は駆け寄った。
「だから何ですぐ脱ぐんだよっ!」



1.短編ページへ
2.続きへ


© ◆ForcepOuXA


2006-12-26 作成
携帯サイト トップページへ