目の前には頭を抱える二人。 俺の手には最強の武具に格上げされた破邪のスリッパ。
久々に使ったが、こんなモノを使わずに済む生活が待ち遠しい。
「すぐにポンポン脱ぎやがって、羞恥心というものはないのか?」
その言葉に非難じみた色を漂わせていたが、何か思いついたのか、普段どおりの表情でクーが擦り寄ってくる。 全裸で。
「そうか、我のこの身体を己だけのモノとしたいのであったか。 ならば杞憂であるぞ、
我は既に主ただ一人のものであるからな」
「なぜ都合のいい解釈に持っていく!? いいから服を着ろ!」
「ふふ、照れなくともよい。 我は、主が独占欲が強くとも一向に構わぬ」
「いや、だから別に独占欲が強いとか、そういう問題じゃなくてだな。 だれかれ構わず魅せるものでもないだろ と言って──」
「見られて減るものでもあるまい。 しかし、主が己のみで楽しみたいという感情も今では理解できる。 さぁ、好きなだけ堪能するがいい」
「いいから服を着てくれ〜〜っ!」
苦労の末 スク水を着せる事に成功したが、さっき俺が言った事をどこまで理解しているのか甚だ疑問だ。
「あ〜ぁ、折角のサンタ服 こんなにしちゃって……」
「む? それほどまでに我に似合っていたか?」
「似合っていたというか、新鮮な感じでよかったと言うか」
「ならば似せる事くらいはできる」
そう言うやいなや、クーの着ている旧スク水が生物のように脈動し、徐々に形を変えてゆく。
そして、脈動が止まるとそこには紺色のサンタ服を身にまとうクーがいた。
「いくら不条理のかたまりって言っても、服まで変化するか普通……」
「何を呟いておる。 これが好みなのか?」
「好みというか何というか」
「ふむ。 やはりこのようなデザインでは艶がない。 主の反応もいまひとつだ」
言い終らないうちに服は蠢動し、形を変えていく。
野暮ったいぶかぶかのズボンがジャケットと融合してコートのような形状に変化する。
「このようなのは好みか? 先ほどのデザインを考慮してみたが」
妖艶な笑みを浮かべゆっくりと距離を狭めてくる。
って、下着見えてる!
パンツ、ランジェリー。 呼び方なんてどうでもいい。
問題は、さっきの俺の言葉を一切理解していないコイツだ。
俺の視線に気付いたのか、クーは首を傾げながらコートの重ねを両手で開いて下を確認する。
「自分で開くな──っ!」
渾身のスリッパブーメランをその顔面で受け止めたクーが、痛みを堪えながら仰け反った体勢を徐々に正していく。
てのひらで顔を覆い、うつむき加減で非難する。
「くっ…… この距離で投げ付けるのは卑怯であろう……」
「自分から下着を見せるとか、そういうのはやめろと言ってるんだ」
「下着という概念は理解している。 だが、これは下着ではない。 我の正装は本来一体型。 それが分割しただけのことであろう」
う、そう言われれば確かにそうだ。
だがそれでは俺の魂が納得しない。
「だからといってだな。 少しは恥ずかしいとか、そういう事も考えてだなー」
「ならば問おう。 主は無害な虫がいたからといって恥ずかしいと思うのか? 我にとって、深きものやインスマスなど取るに足らぬ存在。 恥ずかしがる道理はなかろう」
確かに桁違いの存在であるクーならそうなんだろう。
しかし、正論だろうと どうしても納得がいかない。
「だが安心するがいい。 我にとって主はあらゆる存在の中でも別格。 我が仕えし存在に恥ずかしがっても詮無きこと。 つまり我に羞恥心など不要」
一点の曇りもない笑みを浮かべ言い切る。
あぁ。 多分ホンキでそう思ってるに違いない……
「ところで主よ。 どのような事をするかは知らぬが、祭りとやらを催すのではないのか?」
「あぁ、そうだった。あまりにも予想外の方向に展開するモンだから忘れてた」
「それで、何をするのだ?」
「取り敢えず、コートみたいなのはやめろ」
クーはあごに手を当てて考え込む。
「家族、恋人、友達などで楽しむ異教の祭り……」
「いや、何か変な格好しそうだから言っておくけど、飲んで食べて騒ぐようなパーティだから。 変なもの召喚したり妖しげな儀式とか関係ないから」
「何か勘違いしているようだが、我は主とともに過ごせればそれで構わぬのだ」
確かにクーは含むところもなく、思ったことをそのまま言葉や態度に乗せてくる。
モラルや一般常識がない点を除けば至って素直で正直な性格といえる。
まぁ、規範にうるさい邪神なんていてもギャグにしかならないから、ある意味正統派な邪神には違いないのかもしれない。
「さて。 パーティというのであれば、このようなドレスは如何かな?」