その姿はイブニングドレス風だが、ミニスカートなのかロングスカートなのか曖昧な感じだが、ドレスっていえば確かにドレスだと言えるスタイルになっていた。
 サンタのイメージを引きずっている辺りが、クーのそこはかとなく可愛らしい性格を現している気がする。
「どうやら悪くはない感じではあるかな」
「クーらしさが出ていていいかも」
「主に褒められて我は気分がいい」
 その端正な造形を持つ顔に薄い笑みを浮かべると、軽く首に手を回してくる。
「それで、あとは何を用意したらいいのだ? 食事と飲み物はわかるのだが、『 騒ぐ 』というのが何を表しているのか、我にはわからぬ」

 普段と趣きの異なる衣装に身を包み、迫ってくるというわけでもなく腕を絡ませてくる仕草に、このまま抱き寄せてしまいたくなる衝動に襲われる。
「どうしたのだ、主よ。 この姿に欲情したのか?」
 クーはそんな俺の感情の変化を敏感に察知する。 しかし読み取り方が違う!
 トキメキとか、そういった感情の変化も邪神であるクーには理解できないのか、すべて性欲として知覚してしまう。
 ダメだ、このままでは聖夜じゃなく性夜になってしまう。


「ふむ、この姿では少し動作に難がある」
 そういってロングスカート部分を取り払ってしまう。



「これでいいだろう。 『 騒ぐ 』というパーティを始めようではないか」
「ちょっと待て! リトゥもいるだろ、何押し倒そうとしているんだ!?」
「リトゥも我と同等の知識を持っていると言っておろう。 気にする必要はない」
「それ違う、何か間違ってる! そういえばリトゥはどこいった!?」
 クーを何とか押しとどめつつ周囲を見回すと、トナカイの着ぐるみを着て妙な行動を取っているリトゥが目に入る。
 両腕を振り上げ、威嚇するような格好で妄想の世界に入っていたリトゥと目が合った。



「がぉー……」
「…………え〜と、何?」
 威嚇の姿勢で固まるリトゥと、それを見つめる二人。
 沈黙が部屋を覆い尽くす。

 リトゥは一つ咳払いをすると、振り上げた腕を下ろし腰に手を当てる。
「んむ。 その、にゃんだ。 よこーれんしゅー」
「トナカイは人を襲わない。 多分。 いや、きっと!」
「ツノがある」
「攻撃できるような形じゃない」
「ツメがある」
「それは蹄だ」
「キバがある」
「トナカイにはキバなんて…… あれ?」
 その着ぐるみには確かにキバが生えていた。 草食動物だと思うんだけどなぁ……
 それ以前にトナカイだよな?

「まぁよい。 細かい事は我の興味を引かぬ。 それよりもインスマスに言って料理と飲み物を用意させよ。 飲んで食べて騒ぐのだ」
 それに異存はないといった風情でリトゥは頷くと、ドアを開けて。 もとい、着ぐるみのためにドアが開けられないのでクーに開けてもらい部屋を出て行った。
「さて、計らずも──」
「いや、絶対謀ってる! パーティをダシにリトゥを追い出したろ!」
「ふむ。 そういえば、自分でドアを開けないのか。 困ったものだ」
 そう言って不敵な笑みを浮かべるとゆっくりとした足取りでこちらに歩み寄ってくる。
 そのままソファに押し倒され、襲われそうになったところで勢いよくドアが開かれる。

「あれほど言ったのに、その衣装で欲望に走ってしまいましたねぇ〜?」
 見ると、スーツ姿に帽子を被り、ステッキを持ったインスマスらしき男が満面の笑みを浮かべ部屋に入ってくる。
「子供たちに夢を与えるサンタクロースが劣情に負けては〜…… おや?」
 その男はクーの衣装に目を走らせると、満面の笑みを浮かべたまま冷汗を流し始めた。
「私とした事がどうやら間違えてしまったようですねぇ〜。 ホーッホッホッホッ」

 クーは立ち上がると無言のまま男を吊るし上げると窓へ向かう。
 男は襟を掴まれたままクーの背中にぶら下げられ、口を開く。
「いいえ、出演料は一銭も頂きません。 お客様が満足されたらそれが何よりの報酬でございます。さて、そろそろ時間も押し迫ってきたようで──」
 クーは窓を大きく開いて大きく振りかぶると、男を勢いよく放り投げる。
「 Daaaaaaaaaaaaaaaaawwwn !! 」
 そして男は投げ飛ばされる寸前に『 夜明け 』と英語で叫ぶと、木々の間に消えていった。

「あれは何だったんだろう……」
「ふむ、あれが最後のモクだとは思えぬ。 第ニ第三のモクがいつ現れるともわからぬ……」
 二人で窓の外。 謎の男が消えた森を見つめ続けた。


「食事の用意をするように言ってきた」
 軽やかな足取りで部屋に舞い戻ってきたリトゥは、不思議そうな表情を浮かべてこちらに目を向ける。
「よし! パーティの用意をするぞ。 リトゥもたくさん食べろよ」
「んむ、たくさん食べてせーちょーせねば世界を取り戻しゅことができにゅ。 ちちよ、待っておるがよい」
 クールになりきれず、少し興奮気味のリトゥと準備を進める。
 口元に笑みを浮かべたクーに見守られながら。



1.前ページへ
2.短編ページへ


© ◆ForcepOuXA


2006-12-26 作成
携帯サイト トップページへ