公人「…………」
夏海「お〜い、公人〜」
は! 魂が飛んでしまった。
紅茶とスコーンだけでこの破壊力とは陸海さん恐るべし。不味さで人を破壊するという存在はマンガなどでもあるが、美味さで人を廃人同然にする事が可能だったとは。
空「お口に召しませんでしたか?」
少し悲しげに見える表情でこちらを伺う陸海さん。
公人「あぁ、そうじゃない。あまりに美味すぎてちょっと魂が抜けてた」
感情を表に出さない陸海さんの始めて見る満面の笑顔。
元々美人なのに、そんな邪気のない笑顔を見せられると照れてしまう。
夏海「ちょっと! そこで二人の世界作らないでよ。私もいるんですからね!」
公人「人聞きの悪い事を言うな。俺はただ陸海さんの笑ってる姿を初めて見てだな──」
夏海「見惚れていたと言いたいわけ、ね」
にっこりと微笑む津川。どうしてだろう、二人の笑顔が全くの正反対に思えるのは……
空「つまり、今は夏海の笑顔に見惚れているわけですね」
違うぞ、これは蛇に睨まれた蛙状態というのだ。
公人「あ〜、なんと言うか。綺麗な女性の笑顔は素晴らしく魅惑的だと思うんだが、今の津川の笑顔には毒があるというか棘があるというか……」
空「夏海は女の私から見ても魅力的ですから、例え棘があっても見惚れてしまう気持ちは判ります。私も夏海のように華のある女性になりたいです」
夏海「ま、まぁ私もそれなりに見られる方だとは思うけど、そこまで持ち上げられると変に意識しちゃうからやめてよね」
陸海さんの言葉が効いたのか俺の台詞まで良い方向にシフトしたらしい。
上手くおだてれば今後の毒発言が減るかもしれない。
公人「陸海さんの笑顔も綺麗だけど、津川が無闇に人を疑うような事やめて素直な笑顔を見せるようになったら今よりもっと素敵だと思うよねぇ〜」
陸海さんに同意を求める事で津川の反論を防ぐ、策士な俺。
空「はい、私の笑顔に関してはありえませんが、夏海の笑顔は棘があっても綺麗です。しかし棘がなくなれば魅力が増すという意見には賛成です」
二人の連係プレイにより真っ赤になる津川。照れている姿は可愛いんだけどねぇ。
夏海「そ、そんな事言ったって公人がからかってくるから刺々しくなるんじゃない……」
公人「二人とも綺麗な顔立ちしてるから、素直な気持ちで笑顔を見せたら落とせない男はいないだろうね」
夏海「え…… ぁ、ぅん。クーは綺麗なのに常に冷静だから損してるよね。せめて態度だけでも素直になればモテると思う……」
津川は耳まで赤くしてうつむく。効きすぎたか?
空「そうですか。モテる事に興味はないのですが、二人が心配してくれているのは分かるので、出来る限り素直な感情が表せるように頑張ってみます」
公人「その方が良いよ、こっちも他人行儀な接し方されるよりも気分いいし。な、津川」
夏海「……うん」
っていうか、いい加減照れるのやめろ。
空「では。美味しいと言ってもらえて嬉しかったので、おかわりして下さい」
綺麗なボーンチャイナに並べれていく菓子と注がれる紅茶。まさに芸術品だ。
公人「津川、手を出さないと俺が全部食べちゃうけどいいのか?」
夏海「私もクーのお菓子は好きなんだから、そういうのはやめてよね」
空「また次回もお誘いしますから無理して食べ過ぎないように気を付けて下さいね」
その後、夕方近くになるまで和やかに雑談しながらアフタヌーンティーを楽しんだ。