マジですか?
公人「え、あの……」
夏海「クーッ、何やってんのよ!」
空「手作り料理はこうして食べさせるのはないのですか?」
公人「いや、あの。そういうのは恋人同士でするモンじゃないかなぁ〜と」
きょとんとした表情で顔を覗き込んだまま考え込む陸海さん。
空「大丈夫です。問題は、ありません」
キッパリ言い切りましたか……
夏海「問題あるわよ!」
津川を見るとわなわなと肩を震わせていた。
空「以前読んだ本で恋人になる以前から好意を寄せる男性にこうして手作りのお弁当を食べさせる表現がありました。本心では口移しで食べて頂きたいのですが、現在の関係ではそこまでさせては貰えないと思いますので仕方なく──」
夏海「当ったり前でしょう!」
空「……というわけで私の手で食べて頂く事で我慢しておきます」
きっぱりと淀みのない言葉で言い切る。
公人「で、でも人前でそういう事するのは照れるし……」
空「そういった感情効果が料理のフレーバーになると判断しました」
夏海「…………」
ぅゎぁ、津川の臨海超えそうだよ……
公人「えっと、自分で食べられるから今回は遠慮しておこうかなぁ〜」
空「私の手料理は食べられませんか……?」
う、潤んだ瞳の上目遣いで見つめるのは反則だと思う。
夏海「公人、食べさてもらいなさい。しぃっかりと見ててあげる」
ちょっと待て! なぜ怒りのオーラをまとって凝視しますか!?
空「あ〜〜ん」
徐々に近づく箸が最終兵器を運んでくる。最早逃げ道はなっくなったようだ。
絶望の淵で立ち向かう。いや、こういうシュチュエーションは嬉しいんだけどね。
公人「あ……ん」
口内に入れてもらった料理をもぐもぐと味わう。
おいおい、陸海さんの手料理滅茶苦茶美味いんですけど。これより美味いって事は津川の手料理は一体どんな代物なんだ……
公人「これって陸海さんの手料理だよね?」
夏海「間違いなくそうよっ」
うお、棘のある視線と台詞が……
空「お味は如何ですか?」
公人「こんなに美味しいの食べた事ない。 ……うん、とても美味しかった」
嬉しいです、と言って俯きながら自分の分も食べる陸海さん。
空「愛情を込めた手料理は格段に美味しくなるというのは本当のようです」
まさか、といった表情で同じものを口にする津川。そのまま箸を落とす。
夏海「嘘…… クーの腕がここまで上達してるなんて」
空「愛情です」
きっぱり言い切る。
空「これも食べてみて下さい。少し自信があります」
またもや目前に迫る箸。抵抗はあるが今更断れないので食べさせてもらう。
公人「うん、これも美味しい。今からでも店を開けるくらいだよ」
空「私は公人さんに食べて頂くだけで満足ですから」
わずかに微笑を浮かべる。陸海さんにそんな事言われると犯罪的に可愛いんですが。
すくっと立ち上がる津川。俺の横、陸海さんと反対に陣取ると。
夏海「あ〜〜ん」
差し出された箸には津川の手による手料理。
公人「あはは…… じ、自分で食べられるから」
夏海「あ〜〜〜〜ん」
にっこり。
空「夏海、まだ私の手料理を公人さんに全部味わってもらっていません」
夏海「公人、勿論断らないわよね?」
有無を言わさぬ気迫。
公人「いや、陸海さんに対抗する理由ないし。ねぇ?」
夏海「あ〜〜ん」
もはや理論は通じないらしい。引きつった笑顔で食べさせてもらってもなぁ……
津川の眉間に人差し指を押し当てる。
夏海「な、何するのよ!」
公人「そんな眉間に皺を寄せた表情で食べさせてもらっても美味しいわけないだろ」
夏海「あ……」
自分がどんな表情だったのか気付き、俯き赤くなる津川。
夏海「じゃぁ、今なら食べてくれる?」
公人「あ、……うん」
夏海「……あ〜〜ん」
おずおずと箸を差し出してくる。
公人「あ〜〜ん」
空「………………」