不公平だ。天は二物を与えずって言うじゃないか。
ところがこの二人は美人で料理も天才的……
夏海「どう、かな?」
公人「……不公平だ」
夏海「えっ、もしかして私失敗してた?」
慌てて同じものを食べる津川。
空「夏海が料理で失敗するなんてありえません……」
夏海「まったく、紛らわしい事言わないでよね」
公人「美味いとか、言葉で言い表せない別次元の味だ」
空「……本当に不公平です」
見ると陸海さんは普段と変わらない表情で涙を流していた。
夏海「ちょっと、クーどうしたのっ?」
空「私の手料理をすべて食べて貰いたかったのに、夏海の手料理の後では無理です。
お酒の力を借りてでも勇気を出して素直になろうとしたのですが、勇気程度では次元までは超えることは出来ません……」
夏海「ご、ごめんっ。そんなつもりじゃなかったの! クーと公人が仲良くしてるのを見て嫉妬したっていうか。ほら、アンタも何か言いなさいよ」
オロオロしていた俺を小突く津川。いきなりそんな事を言われても……
公人「え〜と、何て言ったらいいのか分からないんだけど。津川の料理には及ばないまでも陸海さんの手料理には陸海さんにしか出せない何かがあると思う」
空「でも夏海の後には恥ずかしくて食べて頂く事なんて出来ません」
公人「そんな事はないよ、陸海さんの手料理だったら関係ないよ」
空「本当に夏海の手料理の後でも食べて頂けるのですか?」
公人「当然だよ」
夏海「ちょっと、お二人さん。何二人の世界作ってるのかしら?」
引きつった笑顔で問いかけてくる津川。この場を治めるように指示しておいてその発言はないんじゃないか?
空「すべての問題は解決しました。夏海も気にしないで下さい」
先程の悲哀に満ちた状態から一気に立ち直ってる。
って、何がどう解決したんだろう……
夏海「なぁんか腑に落ちないんだけど、これ以上時間をかけて料理が冷めても問題だし本来の味で食べられる内に食べましょうか」
空「では、これをどうぞ」
って、陸海さん。まだ自分の箸で食べさせてもらえないわけですか?
公人「いや、あの〜。一人で食べられるから」
空「大丈夫です。公人さんが食べている間に自分の分も摘まめます」
津川に助けを求めようと振り向くと
夏海「食べさせて貰ったら? それほど時間がかかるものでもないし」
こめかみがピクピク動いてますよ、津川さん……
空「あ〜〜ん」
公人「あ……ん」
致死寸前の放射能を津川から浴びながら、それを癒して余りある至福の料理を食べ
させてもらう。
空「これで私の手料理は終わりました。如何だったでしょうか?」
公人「うん、ホント美味しかった。普段いいもの食べてないから余計に美味しかったよ」
嬉しそうに微笑む、といってもかすかに表情が変わる程度なんだけど。
空「公人さんさえ宜しければ毎日でも作って差し上げます」
公人「それは嬉しい提案だけど、そこまで迷惑かけるわけにはいかないよ」
どこまでホンキなのか分からない分、下手な返答は避けるべきだ、うん。
夏海「あ〜ら、いい提案じゃない。そうして貰ったら?」
それまで一人で黙々食べていた津川が何かを噴出させる寸前といった雰囲気で言う。
空「迷惑ではありませんのでお気遣いなく、この程度の事では私の愛は伝えきる事は出来ません」
公人「は?」
夏海「はい?」
突然の理解を超えた発言に固まる二人。時間を止めた張本人だけが動ける世界。
気付いた時には視界は陸海さんで埋まり、唇に柔らかい感触。
空「好きです。私には貴方が必要なようです」