夏海「公人、目を瞑りなさい」
公人「は?」
イキナリ何言い出すんだ。
夏海「私はファーストキスなの! ムードもなく初めてのキスを済ませろって言うの!?」
いや、逆ギレされても困るんだが。
公人「言い辛いんだが、津川まで口移しで食べさせる意味ないんじゃ──」
夏海「じゃぁ何? クーとはキスできても私には魅力がないからキスできないって事?」
こちらを見つめる目にじわじわと涙を浮かべ始める。完全に論点を見失ってるぞ、津川。
公人「いや、そういう事じゃなくってだな──」
空「夏海ほど魅力的な女性はいません。そして私は夏海の親友である事に誇りを持っています。その親友を侮辱するのは公人さんであろうと許しません」
キリっとした表情で言い放つ。でもね、腕に抱き付きながら言っても説得力ないですよ?
夏海「私はクーみたいに可愛くないし、キスなんてしたくなるわけないよね……」
肩を震わせて泣き出す津川。
公人「二人を比べる事なんて出来るわけないだろ。二人とも綺麗で可愛いんだから」
夏海「だったら証明して」
空「キスしてあげて下さい」
もはや引くに引けない状態のようだ。
公人「陸海さん、腕放してもらえる?」
しぶしぶ腕を開放してくれる。
空いた片手で津川を軽く引き寄せると、夏海は顔を上げ上目遣いで見上げてくる。
夏海「公人…… 私可愛い?」
公人「……とても可愛いよ」
夏海「ありがとう、嬉しい……」
そして目を閉じた津川に唇を合わせるだけのキスをした。
数秒そのままにしておいたが、放してくれる気配がないので少し強引に引き離す。
夏海「いじわる……」
キスした後に上目遣いで拗ねるのは反則だと思う。あの津川ですら凶悪な可愛さになる。
そして肘の辺りをくいくいと引っ張られる気配。
空「私にもキスして下さいませんか?」
公人「少し前にしたよね……」
空「公人さんに、公人さんからキスして欲しいんです」
何か違うのか? 津川に助けを求めようとするが津川もなぜか同意してるっぽい。
夏海「確かにこれでは不公平ね。公人、許してあげるから優しくキスしてあげなさい」
いや、不公平とか許すとか全然意味分かんないんですけど。
空「それとも夏海には出来──」
公人「陸海さん、それはもういいから……」
ここで疲弊した姿を見せてキスしたらリテイク食らいかねないので気合で立ち直る。
陸海さんの両肩に手を置き見つめる。
公人「今からキスしたいと言ったら許してくれる?」
空「はい、私もして欲しいです」
普段では気付かない程度に瞳を潤ませ微笑む。一気にテンション最大まで復帰する。
公人「目を閉じて」
空「はい……」
細い肩を抱き寄せるように腕を廻しキス。陸海さんの腕が背中に廻される。
夏海「…………で、いつまでキスしてるのかしら?」
肩を叩く手がいやに恐ろしかった。
公人「さて、夕食の続きに戻ろうか〜」
空元気に取られそうなほど元気に提案する。
このままではどんどん要求がエスカレートするおそれがあるからだ。
『ブラボー!』とスタンディングオベーションしている観客を発見されたらマズイ。
空「では、公人さんに口移しで食べて頂く順番についてなのですが」
夏海「そうね、別にいくら時間をかけようと構わないけど、この調子で続けていては深夜になりかねないわね」
まだ続ける気なのか?
公人「いや、もう開放されてるから普通に食べられるし。ね?」
空「最早決定した事項ですので棄却は承服できません」
夏海「私はそのためにファーストキスまで失ったのよ!」
完全否定。っていうか、失ったっていうのは表現の仕方間違ってるだろ。
公人「もしかして全部俺の責任になってる?」
夏海「私の唇に初めて触れる権利をあげたのだから、私の要求を呑む義務はあるわね」
空「私は責任を公人さんに押し付けるつもりなんてないのに、酷いです……」
と言ってグラスに残ったワインを喉に流し込む陸海さん。
お願いだからそれ以上飲まないで下さい……
空「夏海、公人さんを極めて下さい」
瞬時に関節を極めてくる津川。って、連携上手すぎだろ。
夏海「そうね、口移しするのは料理じゃなくてもいいものね〜」
耳元で艶っぽく囁いてくる。陸海さんはグラスにワインを注ぎ直すとすり寄ってくる。
空「私、ワインが好きになりそうです。抵抗しないで下さいね」
微笑むとグラスを傾けワインを口に含んだまま覆いかぶさってくる。
仕方なく唇を開く。ワインとともに陸海さんの舌がおずおずと差し込まれ絡み付く。
それはグラスが空になるまで続けられた。