理奈「あら。クー、良かったじゃない。ライバルかと思ったら恋のキューピットだったわよ」
おいおい、何気に乙女チックだな毒舌なのに。
空「はい、これで公人さんに振り向いて貰える可能性が上昇しました。ファーストキスを差し出すくらいなので男性として好きなのだと思っていたので安心しました」
夏海「余計な事まで言わなくていいのよ!」
理奈「ふ〜ん、あの夏海がキスまでね〜」
うゎぁ、絶対楽しんでるよ…… 本質的に津川と同類だ。
夏海「別にキスくらいどうってことないしっ」
首まで赤くしてそっぽを向く津川。
理奈「そう。それなら話は早いわ、クーの初恋の邪魔を一切しない事を誓いなさい」
ズビシと津川を指差す高屋敷さん。命令し慣れてるなぁ。
夏海「なんでそんな事、リンに言われなきゃいけないのよ!」
テーブルを叩き立ち上がる。ブラが目の前で揺れるのは目の毒だから服を着てくれ……
かなり居心地悪いんだが、いつの間にか陸海さんに腕を抱きかかえられていたので、振りほどこうにも目立ちそうなので出来ない。今矛先が向けられるのは危険だし……
理奈「夏海の事だから好きじゃないとか言いつつ、クーと同じ事を公人君に求めてるでしょ。
二人にしたら凄い迷惑よねぇ、貴女の下らないプライドの為に振り回されて邪魔されるんだから。
少しでも人を見る目があるならクーに告白されて断る男はいないわね」
空「そんな事はありません。夏海がいなければ公人さんとの接点はありませんでしたし、手料理を食べて頂く事も、口移しでワインを飲んで頂く事もなかった筈です。
それに、告白したその日にこうして公人さんに接する機会はなかったでしょう」
そう言って腕の中に身体を滑り込ませてくる。
夏海「クー……」
今だ、今しかない! この重圧から抜けるチャンスを逃したら絶対後悔する!
公人「話の途中ですまない…… 今、俺には聞いておかなければいけない事があるっ」
三人の視線が集まる。出来る限りの真面目な顔を心掛け、その機を伺う。
理奈「……何かしら? 分かる事なら答えるわよ」
勝った、この空間の支配権を奪った!
公人「津川だけ名前で呼ばれてる理由って何?」
沈黙。そして我慢できなくなった高屋敷さんが面白そうに笑い出す。
理奈「やられたわ、ここまで隙のない男だったとは計算外だったな〜」
見当違いもはなはだしいが、取り敢えず成功したのでよしとしよう。
公人「それこそ勘違いだけど、何か理由はあるの?」
理奈「空は分かりやすいけど、音読みしてクウ。呼び易いようにクーって伸ばしてるけどね。
私はRINAってアルファベットに直して、最初の三文字でリンね。
だけど夏海って崩しようがなかったからね〜 カイは気に入らないようだし」
空「カイという呼び方も悪くはないと思いますが」
夏海「嫌に決まってるでしょ……」
ふむ、まだ津川はテンション上がらないみたいだな。
ふと目が合いニヤリと笑う高屋敷さん。
理奈「そういう話題を出してきたって事は何か案があるんでしょうね、公人君?」
話題逸らしの意味を勘違いしてる気もするが、まぁ結果オーライでいこう。
何かいい案はないかと考える。視線を感じ三人を見ると微妙に期待の眼差し。
はぁ、俺は基本的に貧乏くじ引くタイプなのかなぁ……
公人「…………ツン?」
津川の拳が脇腹に刺さった。