部屋に響き渡る高屋敷さんの笑い声と俺の苦悶。
夏海「誰がツンですってーーっ! アンタとは一度トコトン話し合う必要があるようね!」
俺は遠慮する。話し合いに拳を持ち込まれそうだ……
理奈「ツン最高〜っ! これは決定だわね〜〜」
空「NATSUMIからTSUMですか?」
夏海「ツンって呼ぶなーーーーーっ!」
まぁ結果オーライ?
ひとしきり笑うと、高屋敷さんがテーブル越しにずいっと身を乗り出してきた。
理奈「とことん想定外の事をしでかすわね〜。君、悪くないわ。今度は私も混ぜてね」
高屋敷さんの言葉を聞いて力任せに俺を引き寄せる陸海さん。
だから背中に胸を押し当てるのは反則だって……
空「……リンも、なのですか?」
公人「あはは…… 高屋敷さん、あまりからかわないで貰えると色々と助かるんですけど」
理奈「別にからかってないけどね〜、まぁ好きに取りなさい。
それと、苗字で呼ばれるのも余所余所しいし、リンでいいから。高屋敷なんて呼びづらいでしょ、先輩でもさんでも好きに呼んでいいから」
空「私もクーと呼んで下さい。敬称は付けない方が好みです」
夏海「何か二人とも無理矢理私をツンと呼ばせたいみたいね」
にっこりと棘のある微笑み。
取り敢えず回復したようだ、後はこれ以上俺に被害が来ない事を祈るだけだが……
理奈「私は呼ぶわよ? ツンってまさに夏海にぴったりじゃない」
公人「……リンさん、これ以上津川を刺激するのは俺に被害が来るので──」
理奈「リンさんって燐酸っぽくて嫌ね。先輩って呼ぶのが嫌ならリンでもいいか〜。
そう思わない? ツン」
悪魔め……
夏海「公人が私の事を夏海と呼ぶなら、リンの好きに呼んでいいわよ……」
俺の脇腹に拳を当てる。殴られるのかと思い身を固めたところ、首に腕が巻きつく。
耳元に当てられた唇から微かに聞こえた声は、好き。と一言だけだった。
理奈「明日に備えて寝ようかな。あ、シャワーは浴びてきたから後は好きにしなさい」
それだけ言うとリンは二階へ上がっていった。通り過ぎた時の含み笑いは絶対忘れん……
公人「リンってここに住んでるの?」
空「はい、三人で住んでいます」
公人「あぁ、だから津川が『貸家だから気にせず入れ』って言ってたのか、てっきり──」
俺の首に腕を絡ませたまま軽く身体を離す津川。
夏海「てっきり何かしら? それと津川じゃない! 夏海っ!」
公人「あ、ぅう…… 夏、海はオープンな性格だからかなぁ、と……」
夏海「はっきり言いなさい、夏海よ。なつ・みなんて名前じゃないわ、言い直し!」
ツッコむ部分はそっちかよ。
公人「……夏海」
夏海「好きだ、が抜けてるけど許してあげるわ」
柔らかく絡み付いてくると、唇をこじ開けるようにキスしてくる夏海。
肩を掴んで引き離すと、不満げに拗ねた表情でそっぽを向く。
公人「いや、だからそういうのはヤメロ。」
空「結局、夏海は公人さんの事が好きなのですね?」
夏海「あ、……れ? そういう事になるのかなぁ〜?」
空「ペナルティが必要です。後片付けは任せました、私は公人さんと一緒にお風呂に入ってきます」
凛とした声で宣言する陸海さん。えーーー!と声を上げるのは夏海と同時だった。
夏海「ダメっ、一緒に入る!」
公人「もう遅いし帰るから」
夏海「服、洗濯して濡れたままなのに?」
空「こんな時間に上半身裸で帰るつもりですか?」
すべて計算して行動してるのかと疑うほどの状況ばかりだ……。
公人「でも流石に乾くのを待つわけにはいかないし」
空「泊まっていって下さい」
夏海「裸とかシーツ被って帰るのは問題あるわね。風邪をひいたり痴漢に間違われたりするわね、確実に」
と言って携帯電話を取り出す夏海。……それは暗に脅迫してないか?