公人「……分かった、泊まらせて貰うから風呂くらい一人で入らせてくれ」
夏海「いいわよ、先に入っちゃって。私は後片付けしておくから」
空「そういう事ですか。では、公人さん、お風呂にご案内します。」
廊下の突き当りにある風呂とトイレの場所を教えて貰う。
空「タオルはこれを使って下さい。それと今日は冷えますので湯船でゆっくり温まって下さいね」
そう言って二階に上がっていく陸海さん。あっさりとした態度に拍子抜けするが、いつ気が変わって乱入してくるとも限らないので急いで入る事にする。
脱衣所を抜け風呂場に入ると、その大きさに驚く。脱衣所込みでアパートの部屋が収まりそうだ。
掛け湯をして湯船に浸かると無意識に溜め息が出る。リラックス出来なかったからなぁ。
公人「それにしても広い風呂でいいなぁ〜。毎日こんな風呂使えるなんて羨ましい」
空「でしたらアパートを引き払ってここに住みませんか?」
失礼します、と付け加えつつ風呂場に入ってくる陸海さん。
申し訳程度にタオルで身体を隠しているのが逆に色気を醸し出している。
空「やはり少し恥ずかしいです……」
と言ってもリビングにいた時より涼しげな表情をしてるような……
って見惚れてしまっていた事に気付き慌てて目をそむけた。
公人「そ、その割には冷静に見えるけど。じゃなくて、二階に行ったんじゃなかった?」
空「はい、着替えなどを用意していました。それと、とても恥ずかしいのですが喜びの方が大きいので、その様に見えるかも知れません」
そこでやっと少し冷静さを取り戻す事が出来た。慌てて後ろを向いて身を縮こませる。
陸海さんが湯船の空いた部分に身を沈めてくる。
公人「ちょっと待て。風呂くらい一人で入らせてくれと言った時、納得したんじゃ……」
空「片づけが終わったら夏海も来ますよ。それより、リラックスして下さい」
リラックスさせようと肩に手を当てて揉み始める。それは逆に緊張するんだが。
公人「それ答えになってない……」
空「夏海の返答は泊まらせて貰うに『いいわよ』お風呂に一人でに『先に入って』と答えていました」
公人「っていうか、言い忘れた。出てけ」
空「では背中を洗って差し上げます。そこに座って下さい」
公人「え〜と、流石に風呂は一人でゆっくりしたいんだけど」
空「やっと二人きりになれたのですから、私の要望も聞いて欲しいです」
確かに夏海に振り回されっぱなしだった気もするし少しくらいは…… って違う!
公人「今日は色々とご馳走になったし、俺に出来る事なら可能な限りしてあげたい……」
縮こませていた身体を包むように腕が廻される。今度はブラなしの直接攻撃。
その破壊力に全身の力が抜ける、一部分を除いて。
空「何かをして欲しいのではなく、公人さんの望む事を全て叶えたいだけです……」
背中に頬をすり寄せると共に胸と腹に廻された腕に力が篭る。
ヤバイ、と思って陸海さんの腕を掴んだが時既に遅く、リトルボーイが腕に当ってしまう。
空「……あの、宜しければ鎮めて差し上げます。なにぶん初めてですので拙い──」
公人「いやっ大丈夫! つぅか離れてくれれば大丈夫になる、予定!」
陸海さんは、時が止まったかのように身動ぎしない。永遠とも思える沈黙の世界。
空「…………やはり迷惑ですね。
私自身、男性に好意を寄せるようになる時が来るとは思いもよりませんでしたし。
好きな人に対する接し方というものが分からないのに、何かをしてあげたいなんて思い上がりが過ぎました」
固く廻されていた腕が解かれ、陸海さんの身体が離れていく。
気付いた時には抱きしめる立場が逆転し、強く陸海さんを抱きしめていた。
公人「陸海さん、違うんだ。君みたいな美人に告白されて迷惑だなんて思えるわけない。
ただ、あまりに突然で自分の気持ちがハッキリしてなくて、こんな状態で確実な返答が出来ないんじゃないかって……」
俯いていた陸海さんが顔を上げる。
空 「陸海さんじゃないです。クーです」
公人「……クー」
ごく自然に、そうある事が当然のように腕が絡まって来て、熱く唇を重ね合わせた。