夏海「お待たせ〜。やっぱり作りすぎ……」
突然の乱入に不意を付かれる。身体を離そうにもしっかり抱き締められ、唇を離そうとしても絶妙な首の動きでついてくる。
仕方なくクーの頭を両手で固定し何とか剥がす。
公人「いやっ、誤解はするなよ。別にやらしい事をしようとしてたわけでもなく──」
バスタオルを身体に巻いた姿で仁王立ちする夏海。徐々に髪が逆立ってきてるように見えるのは錯覚に違いない、うん。
夏海「さっさと…… 離れなさいっ!」
公人「は、はい!」
その声に危険を感じ生存本能のみでクーの肩を掴み引き剥がす。
沈黙。
空「まぁ……」
夏海「…………っこ、この変態ーーーーっ!」
どこから取り出したのか、夏海の手からすっ飛んできた風呂桶が顔面に激突するのと、俺がとある理由で鼻血を噴出したのはほぼ同時だった。
気がついた時にはクーに膝枕され、腰にタオルが掛けられたうえに風呂桶を置かれた状態だった。
何となく風呂桶が乗っている理由が分かる気もするが、恥ずかしいので考えるのをやめる。
空「公人さん、気が付きましたか?」
泣きそうな表情のクーが、俺の頭をタオルを巻いただけの胸に抱き入れる。嬉しいんだけど、またリトルボーイが投下OKになっちゃうって……
公人「もう、大丈夫だから。そういえば夏海は?」
夏海「ここにいるわよ」
声の聞こえた方向、湯船から顔を半分出した状態で夏海がこちらを伺っていた。
イメージ的に捨て猫みたいな感じ。
公人「え〜と、さっきのはだな〜」
夏海「一応全部クーから聞いたから言わなくていいわよっ」
空「それよりも身体が少し冷えてしまいましたね。お湯に浸かりましょう」
夏海に少し後ろめたい気持ちもあり、素直に従う事にした。
腰にタオルを巻いたまま入ろうとしたが、行儀が悪いの一言で却下された。
当然、一度入ると言った以上、この二人が許してくれる筈もなく今に至る。
夏海「……たまには裸の付き合いってのもいいかも知れないわね」
公人「それは本来の意味と違うぞ」
空「そうですね。本音で付き合う、とか心をさらけ出して相手に対して誠意を──」
夏海「っ、場を和やかにする為の冗談にツッコミ入れないでよ!」
いや、さっきの口調はホンキでそう思ってただろ。
公人「まぁそれはひとまず置いておいて、俺の両腕を解放して貰えると色々と助かる」
もう説明するのが嫌になるくらい全く同じ状況。つぅか乳くっ付けるな……
ちなみに俺の両手は、時折現れる対潜哨戒機から戦略潜水艦を守るために使われている。
言うまでもないが核ミサイルの発射管は注水済み。
空「そうですね、そろそろ身体を洗いましょう」
夏海「そうね、今日は長風呂したくない気分だわ」
示し合わせたかのように一斉に立ち上がる。勿論腕は離してくれないので危険が大ピンチ。
公人「ちょっ、お前ら見える、身体くらい隠せ! つぅか腕離さないと見えちゃうだろ!」
夏海「好きに見ていいから立ち上がりなさい」
空「いくらぬるめのお湯でも長時間浸かっているとノボせてしまいます」
女二人の力でも不利な体勢の男ならどうにでも出来てしまう。
結局されるがままに椅子に座らせられ、身体を洗って貰う事になる。
公人「身体を洗って貰う事は承知した。だから、せめてタオルで身体を隠して下さい」
悲しい事だが一番の弱者の身では、お願いするしか生き残る道はない。
空「私は見られても構いません。むしろ見て欲しいです」
夏海「私も見られて困るような身体付きじゃないから構わないわよ」
公人「オ レ ガ コ マ ル ン ダ !」
空「では私の身体も洗って下さるならお受けします」
夏海「そうね、おねぇさんの身体を磨き上げてくれるなら条件飲んでもいいわよ」
まだまだ災難は続きそうだった……