06-07

 ゆったりとした時間が流れて、最後にクーは髪に付いた洗剤を洗い流す。
空「終わりました。私の背中も洗って頂けますか?」
公人「それじゃ目を瞑ってるから俺の前に座って」
空「…………座りました」
 薄目を開けてクーを確認する。夏海より若干小柄で華奢な身体つき。肌もきめ細やかだ……
夏海「こほん!」
 やばっ、夏海がいるのに少し見惚れてしまった。

 タオルにボディシャンプーを掛け、クーの背中を洗い出す。
公人「痛くない?」
空「大丈夫です。もっとも公人さんがしてくれるなら、どんな痛みにも耐えられます」
 聞きようによっては最も危険な発言。実際、夏海産の怒りの波動が強くなっているし。
 夏海の場合はフェロモンが強すぎて直視出来なかったが、クーはフェロモンと保護欲を掻き立てる雰囲気がバランスよく、もっと見たい衝動に駆られる。
 と、考えている間に洗う部分がなくなってしまう。
公人「はい、しゅ〜りょ〜〜」
 夏海の手前、少し冗談っぽく言っておく。

空「ありがとうございました」
夏海「……公人? 一体何考えていたのかしら、おねぇさんに教えて貰えない?」
 むぅ、なぜそう勘が鋭いんだ…… 出来るだけ感情を出さないようにしよう。
公人「一体何のこと?」
夏海「誤魔化しても声のトーンで丸分かりなんだけどね」
 恐ろしさのあまり硬直する。クーは何がなんだか分からず肩越しに夏海を見ているようだ。
公人「ま。まぁ、そろそろ風呂から出ようか……」
空「そうですね、また湯船に入るとのぼせそうです」
 と言って振り向きそのまま身体を傾けるとキスしてくる。
空「背中を洗ってもらうというのが、こんなに気持ちいいとは思ってもいませんでした。
嬉しかったです、またお願いしますね」
夏海「ふぅ〜ん、何か約束でもしたのかな〜。後でゆっくり聞かせて貰うからね」
 どうして修羅場しかないのだろう、と頭を抱える秋の夜長。



06-08

 結局二人には先に上がって貰い、少し湯船に浸かる事にした。今行ったら着替えを見たり見られたりしてしまうし、髪を乾かす手間もあるだろうから。
 この家に来てリラックス出来た2回目のチャンスもすぐに終わる。服着るくらいだしなぁ。
空「着替え終わりました。お風呂から出ても構いませんよ」
夏海「あ、そうだ。服全部洗濯しておいたから」
 何? 聞き捨てならない言葉を聞いた気がして問い詰める事にした。
公人「間違いだと思うんだけど、服を全部洗濯したって──」
夏海「そうよ。耳は正常みたいね」
公人「それじゃ、風呂から出ても俺は裸になるだろ」
空「大丈夫です、安心して下さい。私がお風呂の用意をした時にタオルケットを用意しておきました。今日はそれで我慢して下さい」
 相変わらず俺の悩みとベクトルの違う返答。狙ってないかと何度思った事だろう……

 まぁ仕方ないので出ようとすると脱衣所に人の気配。
公人「もしもし? そこに誰かいらっしゃいますか?」
空「はい、二人ともいます」
夏海「早く出てきてよ、身体を拭いてあげようと待ってるんだから」
公人「頼む、それくらい自分でやらせてくれ」
夏海「じゃぁ交換条け──」
公人「さっさと出てけ」
 渋々出て行く二人。マイペースすぎて対処に困る…… しかも二人だしなぁ。

 用意してあったバスタオルで身体を拭き、タオルケットをまとう。
 姿鏡に写る自分を見て鬱になる。イブニングドレスかよ……
 取り敢えず非常時の為に緩めに巻き直す。このままで済むわけないしな。
公人「うゎぁ、人前に出られないって……」
 そうこう試行錯誤していると扉がノックされる。
空「かなり時間かかっているようですが、何か問題でもありましたか?」
夏海「公人が来るのを待ってるんだから早く〜」
公人「あ〜何と言うか、タオルケット以外に何かないか?」
空「毛布とかシーツくらいならあるのですが、肌触りや生地の材質を考えると──」
 そうさ、今日はハッピーでアンラッキーな日なんだ。



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© ◆ForcepOuXA


2006-02-15作成 2006-02-16更新
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