一時間ほど経ったころ夏海が部屋にやってくる。
夏海「直った?」
公人「まぁ形だけはな……」
テーブルに並べられた三客のティーカップとソーサー。
夏海「上出来。さぁ、クーの部屋に行くわよ」
箱にカップをしまい直し部屋を出た。
夏海「クー、入るわよ」
返事を待たずにドアを開ける夏海。それは違うと思うぞ……
クーはテーブルの前に座って待っていた。
空「どうぞ座って下さい」
座る事なくドアの傍に立つ夏海。まぁそれが夏海の優しさなのか……
俺はクーに近づくと膝立ちになり、ティーカップの箱をテーブルに置く。
表情を曇らせるクー。
公人「俺に出来る事はこれくらいしかないから…… すまない」
クーは少し躊躇していたが、箱に手を伸ばし蓋を開ける。
中には形だけの使い物にならないティーカップ。
空「……公人さんの優しさが詰まったティーカップです。これ以上の記念品はないです」
クーはうっすらと涙を浮かべ、きつく抱きついてくる。
夏海「……よかったわね」
空「はい」
公人「あ〜、でも直せと言ったのは夏海だからな」
身体を離すと軽く微笑む。
空「それでも嬉しいんです」
そう言うと強く唇を押し付けてくる。そのままバランスを崩し床に押し倒される。
公人「むっ。……な、夏海……が見て……るって…………」
何とかクーを離そうともがくが、体勢が悪く離すことができない。
空「私は見られていても構いません」
話すためだけに唇を離すが、更にキスを求めてくる。
夏海「そろそろいいかな〜?」
耳元で聞こえる夏海の声。クーはその声で顔を離す。だが身体は離してくれない……
横を向くと床に寝そべり頬杖をついた夏海がいた。
空「まだ満足していません」
公人「暴れるとまたカップ壊すかもしれないし、この辺りで──」
夏海「じゃぁベッドに行きましょ」
にっこりと笑顔を向ける。
いつか見た写真のように、両手を左右から引っ張られベッドまで引きずられる。
抵抗は力が拮抗していなければ意味がないことを理解する。
夏海「クーばかりキスしてずるいと思わない?」
空「仕方ないです。公人さんを愛する気持ちは夏海より大きいのですから」
夏海「勝手に私の愛の大きさ測らないでよねっ」
笑いながらでなかったらケンカしてるようにしか聞こえない台詞。
公人「あの〜、俺としてはこういう事は恋人同士になってからでいいんじゃないかと──」
空「私は公人さんとキス出来るなら、恋人と認めてもらえていなくてもいいです」
夏海「別にいいじゃない。二人して公人の彼女になってあげるから」
公人「そういうのは世間的にだな──」
発言権は夏海のキスによって奪われた。
両肩に二人の頭が乗った状態で横になっている。腕枕は二人的に却下となったらしい。
空「こうしていられるのであれば、私は公人さんの愛人でも構いません」
夏海「あら、私が公人の愛人でいいわよ? 正妻にはクーがなりなさい」
二人とも正妻にはなりたくないらしい。
公人「二人とも勝手に話を進めるのはやめてもらおう」
空「では、公人さんが選んで下さい。私はその決定に従うまでです」
夏海「どっちを正妻にしたいの?」
公人「つぅか、正妻決めると愛人がもれなく付いてくる環境ってどうなん?」
空「幸せならそれでも許されるんです」
幸せそうにクーは微笑んだ。