陸海空 -Caress of Venus-

第一章 第六話 fate -II-



12-01

 頻伽の声。水晶のように透明で穢れなき歌声。
 囁くような儚い歌が耳朶を震わせる。意識の覚醒を妨げ、夢に誘う誘惑の声。
空「……あ、起こしてしまいましたか?」
 また眠りに落ちそうなところでクーの声が聞こえ、急速に意識が覚醒してゆく。

公人「クー、おはよう……」
空「おはようございます、公人さん」
 今日もクーは腕を抱きかかえるようにしていた。
公人「また腕が冷たくなってた?」
空「それほどでもありませんでしたが、私がこうしていたかったんです」
 そう言うと腕に頬をすり寄せる。
公人「そういえばさっき歌ってなかった? とても綺麗な歌声を聞いた気がしたんだけど」
空「申し訳ありません。気づいた時には口ずさんでいたようです……」
公人「とても上手だったよ、高く澄んだ声で。迦陵頻伽かと思った」
空「それは褒めすぎです。私は歌声を褒められた事はないので嬉しいのですが」

 そういうと身体をずらし胸に滑り込んでくる。クーの手がスウェットの下から潜り込み、徐々に胸の方へとくすぐっていく。
公人「ちょっと待てっ、そういう事は朝からする事じゃない!」
空「夜でも許して貰っていません。私はもっと深い繋がりを求めています」
 そう言うとクーは馬乗りになり、パジャマのボタンを全て外してしまう。
 クーの素肌が朝日の中で露になる。欲望と理性の葛藤。
公人「いや、気持ちは嬉しい。クーの事は好きだし、抱きたいと思うけど──」
空「それなら問題はまったくないという事ですね。私はキス以上の事を望んでいます」
 倒れこみながらスウェットの上着を捲り上げ、身体を密着させながら唇を塞ぎにくる。
夏海「朝から元気ね。朝食の準備が出来たけど、そういう事なら私も参加しようかしら」
 参加しなくていいからクーを引き剥がしてくれ、と言いたかったが、口は完璧に塞がれていた。



12-02

 夏海の参戦なんてことがあったら抜け出すのは不可能なので、上に覆いかぶさっているクーが怪我しないように気を配りながら半回転する。
 体勢が反対になったことで俺がその気になったと思ったのか、クーの身体から力が抜ける。
 そのチャンスを逃さず強引に腕の中から抜け出すのと、夏海がベッドまで辿り着いたのは同時だった。

夏海「あれっ、もうやめちゃうの?」
公人「最初から何もしてない」
空「公人さん、この格好は寒いです。暖め直して下さい」
 そう言って両腕を伸ばしてくる。パジャマははだけたままなので目を逸らす。
夏海「こんな可愛い仕草で求めてくる子を放っておくなんて男じゃないわね」
公人「何とでも言え。俺はずるずると流れに任せて二人を傷付けたくないだけだ」
空「私はこんな格好で放っておかれる方が傷付きます」
夏海「手を出しても出さなくても女は傷付くんだから我慢することないわよ。だったら、その傷を癒す方法を考えなさい」
空「夏海が今いいことを言いました。それにとても辛そうに見えます」
 二人の視線が一点に集中していた。

公人「だから見るなーー! 男だってデリケートなんだぞっ!」
 デリケートな部分を隠そうと守りにはいった事が災いした。
空「大丈夫です。公人さんが傷付いても、私が責任を持って癒して差し上げます」
 耳元でクーの甘い声。隙を突いて傍まで近づいていたようで、そのまま抱き付かれる。
 救いは期待できないが藁をもすがる思いで夏海を見ると、パジャマの上に羽織っていたカーディガンを投げ捨て、クーと同様にパジャマのボタンを外している最中だった。
夏海「覚えておきなさい。守りにはいると自分が思っている以上に隙が出来るものよ」
 妖しい笑みを浮かべた夏海は、首に腕を回し激しくキスをしてくる。
空「公人さんは暖かいです」
 俺のスウェットを捲くり上げ、背中に胸を押し当ててくるクー。
理奈「ふむ、これは公人君の負けね」
 声のした方向に目を向けると、リンが椅子に座ってこちらの痴態を観察していた。



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2006-02-15作成 2006-02-16更新
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