夏海「また邪魔しに来たの? 言っとくけど公人はあげないわよ」
空「公人さん、手をどけて下されば私が鎮めて差し上げます」
温度の違う視線で見つめ合う二人と、マイペースに襲い掛かるクー。
理奈「こういうのを実際に観察できる機会ってほぼないじゃない。いい機会だからじっくり観察さて貰うわ」
無慈悲な台詞。それでもここで唯一すがれる藁はリンしかいない。
公人「助けて、どらえリ〜〜ン」
理奈「……夏海、手助けしてあげるけど何かして欲しいことある?」
それは自爆ボタンだった……
夏海「……これ以上借りを作ると公人を一日貸せとか言われそうだからやめとく」
夏海は少し考え、きっぱりと拒否する。
理奈「そういうのもいいかもね〜。それじゃ公人君の手助けでもしてあげようかしら」
公人「リン、それだ! 弱者を助けることこそ王道!!」
夏海「…………リン、そうやって公人に貸しを作って同じことしようとしてるでしょ」
理奈「あら、そんなこと全然思ってないわよ」
部屋の空気がねっとりと絡み付くくらいに重くなる。つぅかクー、耳噛むのはやめろ。
夏海「……公人、今日のところは解放してあげるわ。リンに借り作られても困るし」
理奈「ちっ」
えっ、何その『ちっ』て何、何?
空「公人さん、そろそろ私にも……」
『朝飯前』という言葉があるがこんな朝飯前は要らない。取り敢えずデコピンしておく。
空「うぅ……、額が痛いです」
テーブルを四人で囲み食事を摂る。一人は額を押さえて痛みを訴え、二人は交戦中。
クーの怪我はもう一日様子を見るとのことで俺が食べさせているが、トーストは自分で食べられるんじゃないか、と提案したが額を押さえて手が空いてないと言われる始末。
向こう側は空中を料理が飛び交い、フォークがそれを阻止。そのまま口に運ぶというアクロバティックな食事が繰り広げられている。
あれも食べさせてあげる内に入るのだろうか……
入居して二日目で自分の判断を心底呪っていた。
食後は昨日と同様にリビングでのんびり過ごしていた。
公人「クー、額はもう大丈夫?」
空「殆ど痛みはありません。ですが、唇で冷やして頂ければ治りも早いと思います」
夏海「……」
夏海はどう言えば自分も同じ事をして貰えるか考えてる模様。
理奈「公人君も大変ね〜」
公人「そう思うなら二人を何とかしてくれ……」
理奈「それは自分で何とかしなさい。それと、昨日学内で騒いだらしいわね〜。
私のところにも噂が流れてきたくらいだから数日間は人気者確定ね」
それだけ言うと頑張ってね〜、と言って出て行く。
もう溜め息しか出ない……
空「今日はどうしますか? リンの話だと大学に向かうのは得策ではない気もしますが」
夏海「まぁ、公人次第でいいんじゃない?」
公人「何となく二人の台詞を聞いていると、昨日のように一緒に出かけるように聞こえるね」
空「それは当然です。私の使命は公人さんをあらゆる障害から護り切ることです」
きっぱりと言い切る。
夏海「公人は昨日の一件でしっかりマークされたと思うし、離れる事は危険ね」
公人「一体誰のせいで巻き込まれたのか聞きたい」
夏海「伊達ね」
空「伊達さんです」
間違ってはいないが正解でもなかった。
公人「今日は昨日のお詫びに『せしる』でも行こうか」
ぶっちゃけ勉強どころの話じゃない。昨日のような状態になったらと思うと鬱になって何もする気が起きない。
夏海「そうね。迷惑かけちゃったし」
空「では、お詫びにお菓子でも作って持って行きましょう」
夏海「じゃぁ、クーの手伝いしてあげるか〜。片手じゃ作れないでしょ」
空「はい。片手では無理なものはお願いします」
そう言って二人はキッチンへ向かった。