12-05

 片手、しかも左手だとは思えない手際の良さで準備を進めるクー。夏海も手伝ってはいるが、クーの手際に驚いているようだ。
夏海「結局手伝うところなんて殆どないじゃない」
公人「利き手じゃないのに、そんなこと思わせない動きだったな」
空「私は元々左利きなのですが、右利きに躾け直されましたので左手も使えるんです」
公人「じゃぁ、箸も左手で……」
空「お箸は左手で使った事がないので、今日も公人さんに食べさせて頂くしかありません」
 きっぱりと先手を打たれる俺。そして菓子作りが終わるまで騒いで過ごした。

 菓子の詰まった袋を手に『せしる』へ。ガラン、という音を立てて開く扉。
益田「いらっしゃ〜い」
夏海「マスター、昨日のお詫びにって、クーがお菓子作ってきたんだけど〜」
益田「気にしなくていいって言ったのに〜」
空「そうはいきません。これをどうぞ」
 クーはカウンターに袋を置く。
益田「じゃぁ、ありがたく頂くよ。それはそうと、言わなきゃならない事があるんだ。
公人君、おめでと〜〜」
公人「はい?」

益田「来店5739人記念のお客様として、粗品を進呈いたしま〜す」
 微妙な沈黙に包まれる店内。だた一人、クーは素直に拍手している。
公人「え〜と、そんな半端な数字なのに記念ですか?」
益田「じゃぁ、6000人記念で〜す。おめでと〜〜」
公人「いきなり増えた261人はどこにいるんだ……」
益田「細かいところは気にしなくてもいいよ」
空「マスターは豪快ですね。いっそ1万人記念にしましょう」
益田「10000人記念で〜す。おめでと〜〜」
 3人から暖かい拍手を受ける俺。あ、夏海は呆れてるか。
益田「粗品進呈には少し時間がかかるから、それはまた後でね」
 粗品用意してないとことか、何か適当な感じを受けるんだが……



12-06

益田「それじゃ飲み物は奢るから、クーちゃんのお菓子を頂こうか〜」
夏海「それじゃお詫びにならないからいいですよ」
益田「こんなに多いと食べきれないからね。はいはい、座って座って」
 結局断り切れずカウンターで談笑する。
益田「クーちゃんのお菓子は相変わらず美味しいね〜」
空「褒めて頂いて嬉しいです」
夏海「まぁ今回のは手を怪我してるからいつも通りとはいかないけど、充分すぎるくらい美味しいわね」

益田「そうだ、クーちゃんもここでバイトしない?」
空「申し訳ないのですが私は公人さんと一緒にいたいのでお断りします」
公人「ぉぃぉぃ、よりによって理由はそれか」
夏海「むぅ……」
 またクーの発言によって考え込む夏海。嫌な予感がする……
益田「じゃぁ公人君も一緒にバイトすればいいんだね」
公人「え?」
 沈黙。そしてクーはマスターの言葉に頷く。
空「公人さんと一緒であれば断る理由がありません」
益田「じゃぁ、夏海ちゃんと一緒のシフトの方がいいよね〜」
夏海「決定」
 既に断れない空気を作り出す三人に頭を抱えた。

公人「でも三人一緒だとシフト偏りすぎませんか?」
 最後の抵抗を試みる。
益田「夏海ちゃんがいない時は一人でも充分人手は間に合ってるから大丈夫。
それにクーちゃんが入れば客足は倍増間違いないからね〜」
夏海「マスターの見解は正しいわね」
 最早引く事を許さない鉄壁の布陣。
公人「でも二人がいれば俺の仕事はないような……」
益田「大丈夫。何か仕事探しておくし、暇なら休憩してればいいから」



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2006-02-15作成 2006-02-16更新
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