マイ「くっ。このくらいでいい気になられたんじゃ、私の立場がないわ! 私のマスクを用意しなさいっ!」
ソデから現れたタイツ男がマイのマスクを手渡す。それを前後に割り、被る。
来栖「それで対等になったつもりか?」
マイ「ふふ、そんなわけないでしょ。これでアンタなんて手も足も出なくなったのよっ」
華姫は肩を竦める。
華姫「所詮その程度の女ね。いいわ、来栖。軽く捻ってあげなさい」
来栖はマントの留め金に手を伸ばすとマントを投げ捨てる。
マントの下にはやはり純白のレオタード状のボディスーツ。華姫のものよりフレアが大きくオーガンジーのような布がふんだんに使われている。
そして、マスクを前後に割ると脱ぎ捨てる。切れ長の澄んだ目を持つ整った顔が現れた。
来栖「これではまだハンデにもならないが、君の力が及ばなかったという事で諦めてくれ」
『うおおおぉおぉぉぉおおぉっっ!』
それまで戸惑っていた観客から盛大な歓声が上がる。
黒服達の動きにも変化が現れた。数人の黒服が沢山の段ボール箱を抱え、テーブルまで運び込み始めたのである。
そこには来栖と華姫の様々なグッズが並び始めた。
先を争ってそれらを買い集める群集。
あははは、と笑う華姫。
華姫「ギャラリーまで奪われたらマイには何も残らないわね」
華姫の瞳に小さな男の子に姿が映り込む。最前列まで見に来ていた子供のようだ。
舞台を降り、しゃがむと話しかける。
華姫「坊や、手伝ってくれる?」
手を差し伸べるが子供は怯えて後退りする。あぁ、ごめんね〜と言うと華姫もマスクを外す。マスクの下には優しい表情をした綺麗な女性が存在していた。
その表情を見て子供は恐る恐る手を差し出す。
そのまま男の子を抱きかかえると、華姫は舞台に飛び移る。
華姫「さぁ、正義の味方さん。この小さな坊やを助けたかったら来栖を倒してみなさい」
華姫を見て呆然としていた観客の熱気が一気に膨れ上がる。
テーブルの前に待機している黒服が怯えるほどの購買欲だ。
来栖「では、私は悪の味方としてマイを倒せばいいのだな?」
マイ「ふ、ふざけるのもいい加減にして貰うわ! マスクなしで私に勝てると思ってるなんて馬鹿にしてるの!?」
来栖「事実だから仕方があるまい。理解出来ないなら掛かってくるといい、君のような者でも実際に体験してみれば理解できるだろう」
華姫「今ならルール違反を犯した一柱を征伐する、という大義名分もあるわよ?」
ね〜、と胸に抱いた男の子に微笑みかける。
マイ「医療班、倒れている者を下げなさい!」
マイの号令で、ソデから現れた胸に赤十字のマークを付けた白タイツの男達が、気絶している男達を運んでいく。
マイ「じゃぁ本気を出してあげるわ。せいぜい後悔しないことね」
マイは突風のような速度で来栖に飛び掛る。素早い連携で攻撃を加えるが、来栖は左手のみでその攻撃を凌いでいく。
来栖「ほう、思ったよりやるな。だが、私は右手をまだ使っていないぞ」
マイ「くっ、なぜ来栖如きにこの私が……」
全ての打撃を凌がれ、マイは仕方なく間合いを取り直す。
華姫「マイが弱いからに決まってるじゃない」
来栖は儀礼杖を床に置くと、マイに向き直る。
来栖「さぁ、遊びは終わりにしよう。本気でかかってくるといい」
割れるような歓声が沸きあがり、来栖コールが屋上に響き渡る。
来栖「しまった、私は悪の味方だったな。目立ち過ぎては正義の味方に悪い」
華姫「来栖。それを言うなら悪の手先よ」