益田「まぁ、強化スーツってくらいだから身体能力は数倍に上がるし、殆どの攻撃に対する耐久性はあるよ。例えば一番薄い部分でも数種類の素材を組み合わせてあるから、普通なら致命傷になるような衝撃を受けても、その殆どを吸収拡散させてしまう。
後は一部分でも欠けるとスーツの能力が発揮出来なくなるくらいかねぇ」
公人「まるでSFのような設定ですね」
益田「あぁ、『すこしふしぎ』だ」
益田「さて、質問はこれくらいかな?」
公人「そうですね。ぶっちゃけ、何を聞いたらいいのか分かりませんし」
益田「では、上に行こう」
そう言うと部屋の奥にある扉を開ける。そこには梯子があった。
公人「いきなりハシゴとは………… 趣がありますね」
益田「何を期待してるのか分からないけど、一応ここは一般家屋なんだよ」
夢のない台詞だった。
梯子を昇りきるとガレージらしき空間に出る。数台の車とバイクが並んでいた。
公人「ここは?」
益田「喫茶店の駐車場脇にあるガレージだよ。さぁ、好きなバイクを選んでくれ」
公人「普通免許しか持ってませんよ?」
益田「……覆面ライダーって言えばバイクだろ?」
物凄い悲壮感を漂わせた表情で見つめてくるマスター。
しかし、持っていないものは仕方がない。
公人「今から自動二輪取るんですか〜〜」
益田「ヒーローが50ccに乗るわけにはいかないだろぅ? エテシリーズで登場したヒーローが250ccに乗った戦闘員と戦う場面を考えてみろ」
公人「覆面ドライバーっていうのはどうです?」
益田「……公人君、夢中警備にならないか?」
公人「俺が警察官だったら、バイクだろうと車だろうと確実に職質しますね。怪しさ大爆発ですよ、夢中警備風は」
膝をつき絶望の深淵に突き落とされるマスター。正義失墜の瞬間だった。
益田「じゃぁいいよ、覆面ドライバーで…… ん〜と、これにでも乗るかい?」
指差した先には普通のコンパクトカー。三産のT−DAだった。
公人「極めて普通ですね。今までの流れから、ロケットランチャーとか謎光線が発射可能な未来銃でも積んでるのかと思いましたよ」
益田「公人君、T−DAをバカにしてはいけない。これほど洗練されたスーパーカーはないぞ。
このコンパクトボディに隠された秘密。最高の安全基準★6つ。低排出ガス平成17年基準75%達成。燃費基準+5%達成。環境に優しいヒーローの為にある性能!
そして重厚なシート。リアシートはスライド&リクライニング。それでいて広い室内空間。しかも景色が映り込むほどの塗装品質!」
え〜と、そろそろツッコミ入れないとなのかな……
公人「それとヒーローが何の関係があるんです?」
益田「分かってないっ、ヒーローは常に環境問題に気を配らねばならないんだよ!」
公人「でもこれって三産車で、MONDA車じゃないですよね?」
嫌な沈黙が世界を覆い尽くした。
益田「……ヒーローがMONDA車やバイク以外を使用してはいけないという決まりはないよ」
公人「覆面ライダーと言えばMONDAだと思ってました。お客様相談センターの豆知識にもそういうページがあったので」
益田「MONDAがスポンサーについてる訳じゃないし、いいんじゃない?」
公人「それはそうですが」
益田「ボディカラーは『収穫の黄』と『暖かな銀』を用意しておいたけど、どちらにする?」
三産がスポンサーになってるんじゃないかと思った。
益田「そういえば、公人君って今は車持ってないよね?」
公人「ある程度は揃ってる街ですから、車がなくても何とかなりますからね」
益田「じゃぁ、シルバーの方を普段使っていいよ。そうだねぇ、これが粗品でいいか〜」
公人「……どんな粗品だ」
益田「あぁ、じゃぁ諸経費込みで200万くらいだけど買う?」
公人「そんな金持ってないですよ」
益田「普段から車に乗ってないと事故起こしかねないからね〜。粗品でいいや〜」