益田「明日から早速三人には頑張って貰おうか〜」
空「はい。なにぶん初めての事なので至らない点もあるとは思いますが、ご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます」
夏海「硬い。そんなの『これからよろしく〜』でいいのよ」
公人「夏海は柔らかすぎだ……」
益田「あまり堅苦しく考えなくていいから。じゃぁまたね〜」
あはは〜と笑うマスターに見送られながら駐車場に向かう。
空「これが公人さんの車ですか?」
喫茶店に入る前にガレージから出しておいた車を前に、クーが珍しい物でも見るように聞いてくる。
公人「実感はないんだけど、そんな感じらしい」
夏海「へ〜、粗品っていうからどんな車かと思ったら結構、いい車じゃない」
公人「マスターいわく、スーパーカーだそうだ……」
ふと目を合わせる二人。その瞳の輝きに背筋が凍る。
空「夏海、車の座席で一番安全なのは後部座席と聞きます。助手席は私に任せて、安全な座席でリラックスしていて下さい」
夏海「あら、同じ事考えていたようね〜。リアシートにはクーが乗っていいわよ」
火花を散らしながらジリジリと間合いを取り続ける二人。まさに戦闘体勢。
公人「ぁ、あの〜。今からどこか寄ってそこで交代するというのはどうかな……」
空「その案は喜んでお受けしますが、これはまた別問題です」
夏海「そうね、これだけは今決めないと意味がないわ」
暮れかかる空を見上げ溜め息を吐いた。
空「快適ですね。私はこの車が気に入りました」
公人「確かにコンパクトカーっぽくないね」
助手席には冷静に車の評価をしつつも、どことなく嬉しそうなクー。夏海はリアシートに崩れ落ちている。
ジャンケンは神聖だ、諦めろ……
空「ところでどこに向かう予定ですか?」
公人「う〜ん、どこか行きたい所ある?」
夏海「……高台の公園」
力なく起き上がりつつ呟く夏海。確かに歩きで向かうには遠いし、丁度いいかも知れない。
空「では公園でお願いします」
夏海「ふん、リアシートに一番最初に乗ったのは私なんだから。今のうちに満喫してやる」
そう言ってごろごろとシートに張り付く。
お前は猫か……
公園の駐車場に着いた頃には日も暮れかけ、空が紅く染まっていた。
夏海「さすがに、この時期に来ると肌寒いわね。もうちょっと厚着してくれば良かったなぁ」
そう言いつつ腕に絡み付いてくる。勿論クーも。
空「しかし、横に公人さんがいて下さるので、私は心地よいです」
公人「こんな所で腕組むのはやめろ」
夏海「そんなの気にする必要ないわよ。殆ど車も停まってないじゃない」
空「そろそろ秋も終わり冬になりますから、好んで人が来るような場所ではないです」
そのまま二人に導かれ、街を一望できる場所まで歩く。
視界いっぱいに広がる街並み。駆け足で暮れていく時間の街には、ちらほらと街灯が灯り始める。
空「……綺麗ですね」
夏海「風がなければもっと良かったのに……」
風に舞う髪を押さえながら縮こまる夏海。遮蔽物の少ない展望台は風が強い。
組まれたままの腕を背中に廻すと二人を抱き寄せる。
公人「少し寒いね」
空「公人さんは暖かいです」
夏海「折角の景色が見られないのは残念だけど、我慢してあげるわ」
柔らかく抱き付いてくる二人を優しく包み込みながら考えていた。
ヒーローになれば平和な日常を守れるのか。
マイのようなバケモノから二人を護りきれるのか、と。