ソファに座って紅茶を飲む。
夏海は夕食の準備、これはまぁいいだろう。問題は隣でしな垂れかかっているクーだ。
空「ご主人様、私も紅茶が飲みたいです」
え〜と、メイドって何だっけ?
公人「普通はメイドというと接待する方じゃなかった?」
空「申し訳ありません、ご主人様。私が右手を怪我していなければ……」
そういう台詞は頬をすり寄せながら言う台詞じゃないと思う。
キッチンから聞こえる荒々しい物音が幻聴だと祈りつつ、クーに紅茶を飲ませてあげた。
夕食の準備が終わり、ダイニングテーブルに並んで座る。なぜか横一列に。
夏海「ご主人様のために、丹精込めて夕食をご用意致しました。どうぞ召し上がって下さい」
公人「……夏海、あまり難しい単語使うと知恵熱出すぞ?」
夏海「ホホホホホ、ご主人様ったらご冗談が過ぎますわ〜」
ギロリという表現は、今の夏海のために用意されていたのではないかと思うほどの視線を
向けてくる。冥土さんだ……
頂きます、と箸に手を伸ばそうとしたところに横から差し出される料理。
夏海「さ、どうぞお召し上がり下さい」
公人「……ありがとう」
爆発寸前の夏海に逆らえず、食べさせて貰う。
夏海「いかがですか? ご主人様」
公人「美味しい……」
夏海「ご主人様にお褒め頂いて嬉しいですわ〜」
空「…………」
挑発するようにクーを見る夏海。クーは横から皿を滑らせる。
空「申し訳ありませんが、右手が使えないので食べさせて頂けませんか?」
と、にっこり微笑んだ。
夏海「…………」
何故だ。メイドさんに挟まれているにも関わらず、不思議と緊迫感溢れる食卓。
箸で料理を摘むとクーに差し出す。それを嬉しそうに口にする。
空「とても美味しいです。ご主人様の愛が伝わってきます」
反対側から聞こえるパキッ、という音は聞かなかった事にしよう。つぅか、した。
夏海「申し訳ありません、お箸が割れてしまいましたわ。私にもご主人様の手で食べさせて頂けませんか?」
若干の震えを含んだ声に拒否する言葉が出せない俺。
恐る恐る料理を夏海の口に運ぶ。
夏海「ご主人様の心が伝わってきて身も心も蕩けそうです」
そう言ってしな垂れかかってくる。
空「夏海、ご主人様の手を煩わせるなんてメイドとして失格です」
夏海「右手を怪我して自分で食べようとしない駄メイドには言われたくないわね」
俺を間に挟んだまま火花を散らす二人。
公人「ちょっ、ケンカするなって。二人とも公平に扱うからお願いします……」
見つめ合い協定を結んだっぽい二人。同時に口を開ける。
空「あ〜〜ん」
夏海「あ〜〜ん」
メイドにご飯を食べさせてあげるご主人様になっていた……
今日も昨日と同様にソファに腰掛け、何となくテレビを流している。
公人「え〜と、二人ともテレビ見てる?」
空「テレビに興味はありません」
夏海「ただのBGMくらいにしか思ってないわ」
両腕にメイドさんをぶら下げてくつろぐというのは、『それなんてエロゲ?』って言われるくらいに直球な男の夢だと言えよう。
だが、これは何か間違っている。
何かしようと行動を起こす前に阻止。お互いに一歩も譲らない状態の二人に腕を掴まれ移動することも適わない。
萌えメイドに挟まれているにも関わらず、精神的に癒されない。