まろやかな香ばしさ、甘さと酸味の見事なハーモニー……
公人「って、同時に食べて味わえるかーーーっ」
クーは俺を抱き締めるように引き寄せると、夏海をにらむ。
空「夏海、邪魔をしないで下さい。私は公人さんに味わって食べて頂きたいのです」
夏海「あら〜、対抗してどんどん口に放り込んでるのは、クーも同じじゃな〜い。それに一緒に食べたところで味わおうとする心があれば問題ないわ」
この瞬間、誰が一番問題のある人物なのか判明した。
クーに向き直り、真剣な表情でその瞳を見つめる。
公人「クー、俺が今何をしたいか分かるか?」
空「当然です。私は公人さんの事であれば、何であろうと手に取るように分かります」
そう言うと俺の頭と背中に腕を廻して引き寄せ、強烈なディープキスをしてくる。
違う! 俺が言いたいのはそういう事じゃないっ。
夏海「クー、公人が嫌がってるじゃないっ。放しなさい!」
力任せに俺を引き寄せる。あっさりと手を離し立ち上がると、ソファを回り込むクー。
その行動の真意を理解して、夏海を引き寄せながらクーが座っていた場所に滑り込む。
夏海「え、何? 二人して何してるの?」
クーは夏海の座っていた席に腰かけ、ミカンを剥きだす。俺も落花生の殻を剥く。
空「夏海、美味しいミカンです。味わって食べて下さい」
公人「落花生も美味しいな。楽しんで食べてくれ」
左右を伺いながら軽く青ざめる夏海。
公人「まだ始まってもいない。存分に味わってくれ」
夏海「ごめん、もう無理……」
空「もうこのくらいで充分でしょう。夏海も反省しています」
夏海は口を押さえながら涙目で訴えかけ、こくこくと頷く。
クーは立ち上がり、先程とは逆回りにソファを回り込むと、なぜか俺の膝上に座る。
空「公人さん、お役に立てたご褒美はないのですか?」
そう言って首に腕を廻してくるクーに言い知れない恐怖を感じた……
夏海「私にここまでの事をしておいて、自分だけ美味しい目をみようなんていい度胸じゃない」
夏海はクーの足を引っ張り、膝上から引きずり下ろす。
空「今の状況を見て、私に構っている余裕なんてあるのですか?」
公人「分かってるなら腕を離せーーー」
首に廻されたクーの腕によって、俺までが半分倒れたような状態になっていた。
しかも首を放してくれないため、クーの胸に軽く顔を埋めるような感じでだ。
深夜の街に、梵鐘の音が荘厳な余韻を残しながら響き渡る。
夏海「……クー。全面的に許すわ」
公人「許すなーーーっ。ほら、除夜の鐘! 今年一年の罪を懺悔して煩悩を──」
空「私の煩悩は全て浄化されました。今、私は清浄なる心で公人さんを求めています」
夏海「除夜の鐘ごときで私の煩悩を取り除こうなんて甘いわね」
そう言うと夏海は、俺の脇の下に腕を差し入れて引き寄せる。
前門のクー。後門の夏海。このままではホンキで襲われかねない……
公人「いや、俺の煩悩は除夜の鐘で払えるし、煩悩に飲まれる気もないからっ」
空「公人さんの煩悩は私が全て引き受け、私の中で昇華させますので安心して下さい」
夏海「私は公人となら欲望の深淵に堕ちても後悔しないわよ〜。というか、堕ちなさい」
滅茶苦茶な言い分で詰め寄る二人。こうなると手が付けられない。
公人「ほら、こういう事は恋人同士で行うべきで──」
空「公人さんは私の事が好きで、抱きたいと言いました。私にも同じ欲求があります」
夏海「未だに私かクーか選べないって事は〜、私の事も好きで抱きたいって事よね〜〜。
責任取れなんて言わないから安心しなさい。責任取るのは公人を虜にする私だし」
やばい。二人とも欲望全開モードに入ってる…… 俺の貞操の大ピンチ。
公人「二人に──」
夏海「そろそろ年も明けるのね。『一年の計は元旦にあり』と言うし、少しくらい強引に関係を進めてしまうのもいいかもね〜」
空「その提案、受けて立ちましょう」
二人とも俺の意見なんて聞く気がないし……