公人「見晴らしのいい公園なのに誰も来てなさそうだな」
夏海「この街にある神社も見晴らしいいところにあるからじゃない?」
空「私は公人さんとの一時を邪魔されなければどこでも構いません」
日はまだ昇っていないが、明け方のまばゆい光が世界を彩り始める。
二人の静かだけれども想いのこもった微笑み。
左右から手を引かれて展望台に向かう間も頬が緩むのを押さえられなかった。
肌を刺すような冷気の中、白い息を吐きながら楽しげに笑う。
二人とも振り袖の他はショールしか身に着けていない。
公人「二人とも寒くない? しばらく車の中にいれば良かったな」
空「少しくらい寒くとも、こうしていられる方が好きです」
そう言うと、俺の腕を抱き締めるように軽く力を込める。
ふと、こちらを伺うようにしていた夏海と目が合う。そして満面の笑み。
もう片方の腕をしっかりと拘束していた手を離すと、ん〜〜、と咽から声を出しながら、俺の身体に抱き付いてくる。
夏海「公人〜、私寒い〜〜。暖めてくれないとス──っと意識が遠のいちゃうかも」
公人「……夏海。寝たふりしても全然説得力ないぞ」
気絶するかのように首の力を抜くが、腕の力は一切抜いてない。
それを見たクーは、む〜という唸り声をあげると二人の間に割り込むように腕を差し入れてくる。
空「願ってもいないチャンスですね。私は今のうちに甘える事にします」
そう言うと、嬉しそうな表情を浮かべて頬ずりし始める。
視界のはしに映る夏海がかすかに引きつる。
公人「クー。嬉しいんだけど、それくらいにしてくれると俺としても色々助かるんだけど」
クーはその声に顔を上げると、無垢な瞳でまじまじと見詰めてくる。
空「公人さん、少しかがんで貰えませんか?」
公人「ん。 どうかした?」
クーは腕を上に滑らせてくると、その両手を俺の頬に当てる。
空「冷え切ってしまったみたいですね。頬が真っ赤になって痛々しいです」
クーは俺の頭を抱きかかえるように引き寄せると、頬ずりして暖めようとする。
公人「いや、さすがにコレは恥ずかしいから」
空「気にしないで下さい。今ここで起きているのは二人きりです」
耳元で優しくささやくクーの言葉に反応するかのように膨れ上がる漆黒の波動。
今や夏海の身体は、隠し切れないくらいに小刻みに震えている……
夏海「……クー。新年早々、私にケンカ吹っかけるなんていい度胸ね」
ゆっくりとした動作で夏海は身体を起こすと、軽く間合いを取る。
公人「お、おい。ホントに新年早々変な事するなよ……」
全身の力を抜き不敵な笑いを浮かべる夏海。
クーは頬ずりする事を止め、そちらに顔を向ける。
空「夏海。反対側の頬も寒そうです」
そう言って俺の頬をつつくクーを見て、夏海は困ったような笑顔を向ける。
夏海「仕方ないわね。私がそっちを暖めてあげるから覚悟しなさい」
公人「覚悟って、変な事しないだろうな」
夏海「ホント公人は馬鹿ね。私が変な事するわけないでしょ」
夏海はまるで見当違いなことでも聞いたかのように素で返す。
公人「今までの行動って、夏海にとって普通だったのか……」
愕然とする俺に微笑む夏海。
その笑みに背筋が凍りそうになった。
初日の出を拝むために来たはずなのに、なぜか俺は左右から頬ずりされている。
しかも吐息が耳に当たって気持ちい……、くすぐったい。
夏海「あら、寒さで耳まで真っ赤になってるじゃない」
その言葉とともに柔らかく暖かいものが耳に押し付けられる。
公人「耳を噛むな────っ」
空「公人さん。耳元で叫ぶのは頂けません」
公人「ご、ごめん」
空「謝っても許してあげません。罰として私もそれをします」