22-03

夏海「ほら、クー。公人のお許しが出たんだから存分に堪能しなさい」
空「うぅ…… 公人さんは本当に優しい人です」
公人「取り敢えず移動しよう。これ以上、衆人環視の中で目立つのは耐えられない……」

 人波をかいくぐるように神社に向かう。
 しかし、周囲から突き刺さる視線はどんどん酷くなっていく気がする……
 左右の二人に向けられる視線とは正反対の憎悪、嫉妬に満ちた視線が俺を突き刺す。
公人「あ、あのさ〜」
夏海「今は我慢しなさい。今は、クーにとって特別な意味を持った瞬間なんだから」
 夏海の方に目を向けると、色々な感情のこもった複雑な笑みを浮かべて囁く。
 その対応に困っていると含みのある笑顔を浮かべ俺の肩に寄りかかってくる。
 どうしようかとクーに振り向くと、軽く目を伏せるように穏やかで幸せそうな表情を
浮かべ、正面を見詰めている。
 声をかけるのを躊躇っていると、それに気付いたクーが幸せそうな笑顔を向ける。
空「公人さん、どうかなさいましたか?」
公人「いや、クーが──」
夏海「幸せそうに世界作るのもいいけど、公人は構ってくれないと悲しいって〜」
 腕にぶら下がるように上半身を傾けるとにんまりと笑う。
 そんな夏海を見て呆けたような表情を浮かべるが、子供のように邪気のない笑顔を
浮かべ腕に抱き付いてくる。
空「こんなに楽しい新年を迎えるのは初めてです。公人さんと出会えて幸せです」

 鳥居をいくつか抜けて、拝殿に着く頃には心身ともに疲れきっていた。
 二人が嬉しそうに騒ぐ度に俺に向けられる視線は加速度を増して険しくなり、新年とは
思えない呪詛まで聞こえてくる始末。
 既に羞恥プレイを超えて、公開処刑に近かった。
公人「…………やっと辿り着いたのか? 遠い道のりだった……」
夏海「何馬鹿なこと言ってるの。普段から運動しないから疲れるのよ」
空「疲れているのであれば座って休憩しますか?」
公人「主に外的要因による精神的な疲れだから気にしないでくれ……」



22-04

 参拝の列に紛れ込めば、今より少しは周囲の視線も弱まると、それだけを期待して二人を促し先へ進んだ。
 参拝も、二人がお賽銭の金額を張り合うという場面さえなければ至って普通に終了し、神社参拝のメインイベントの時間がやってきた!

夏海「急に元気になったわね、公人」
 生暖かい視線を俺に向ける。クーは……あまり普段と変わらず、表情が読めない。
公人「おみくじ楽しみだなぁ〜」
夏海「クー、やっぱり公人は巫女属性高いと思うわよ」
空「ふむ。巫女装束が早く見付かる事を切に希望します」
 二人は完全に俺が巫女好きだと決め付けている。まぁ、間違ってはいないんだが。
 巫女さんを見る度に小突かれながらも三人でおみくじを受け取る。
 ひと気の少ない場所に移動して開封した。
夏海「何この【女神】って……」
公人「は?」
空「奇遇ですね、私も【女神】です」
 見せて貰うと、普通なら吉とか書かれている部分に【女神】と大きく書かれている。
 そして、二人の視線は俺の手元に注がれる。何かを期待しているようだ……
公人「まさかなぁ〜」
 恐る恐るおみくじを開く。そこには【神】の文字があった。

夏海「何か作為的なものを感じるわね……」
 その意見には大いに賛同する。
空「それでも、公人さんとお揃いなので気にしません」
 クーは嬉しそうな表情を浮かべると、おみくじを丁寧に折り畳んで巾着の中にしまう。
 夏海はそんなクーを温かく見守る。視線に気付くと苦笑いを浮かべ同じようにしまった。
夏海「まぁ、あまり出ないものみたいだし大切にしないとね〜」
公人「確かに周りの反応見ても、そうそう出るものじゃないみたいだしな」
 おみくじを見て落胆する者、大吉だと喜ぶ声、その中には神だ女神だという声はない。
 そうだとすると、本当に珍しいモノなんだろう……



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2006-07-31作成
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