23-03

 喫茶店兼自宅の二階にあるリビングで増田は女性とともに新年を満喫していた。
 そこに静かだがよく響く電子音を発して電話が着信を知らせる。
益田「新年から誰なんだろうね〜。 ……は〜い、益田です」
公人『……あ、マスターですか? 公人です』
益田「あ、公人君? あけましておめでと〜」
公人『あけましておめでとうございます…… のんきに挨拶してる場合じゃないんですが』
益田「どうかしたの?」
公人『神社にマイが。例の、駅前で会ったあの子がいるんです』
益田「ほ〜。あちらは新年早々がんばってるみたいだね〜」
公人『……そんなのでいいんですか?』
益田「まぁ、放っておけないよなぁ。 ……ってことらしいけどどうする?」
 昼行灯といった雰囲気の抜けたマスターが、目の前にいる女性に声をかける。

公人『あ、お邪魔してしまいましたか』
益田「あ〜。構わないよ、奥さんしかいないし。それに、彼女も関係者だからね」
世知「キミが公人君? 初めまして。令司の妻で、世知といいます。よろしく」
公人『せしるさんですか? こちらこそよろしくお願いします』
世知「マイを見かけて報告してきたってことは、出動したいって考えていいのかしら?」
 決意を確かめるかの如き言葉に、電話の向こうにいる公人は押し黙った。
公人『……はい。 ……俺は、二人の悲しむ顔を二度と見たくないんです』
 世知はおどけたような笑顔を向けると益田に合図を送る。
益田「それじゃ相手側にコンタクト取るから、公人君は裏のガレージまで来てくれるかな」
公人『わかりました。準備お願いします』

 電話を切り、益田は世知と向き合う。
益田「元旦から営業とは勤勉だな」
世知「知らないわよ。そんな報告受けてないし」
益田「……もう少しゆっくりしたかったんだけどな」
世知「勝つ自信はないってこと?」
 感情を読み取らせない表情で視線を反らせると、さぁ? とだけ呟いた。



23-04

 何と説明するべきか悩みつつ、二人の元へと戻る。
 この人出でも目立つ二人。しかし、元気なくうなだれているように見えた。
 空元気と取られようと、ここは自分から明るく接しなければと手を挙げる。
公人「お〜──」
 その瞬間、左右から伸びてきた手によって拘束され、口も塞がれる。
 何が起こったのか確認しようにも、その手際のよい動作によって思うように動けない。
 瞬間、目の前を高速で駆け抜けるきらめく物体。
『ぐあっ!』『がはっ!』
空「公人さんから手を離しなさい!」
 そこには指の間に数枚ずつお守りを挟み、今にも投げ付けようとするクーがいた。

夏海「公人に手を出すなんて身の程を知らない連中ね」
 そう言って袋から破魔矢を抜く。
公人「えっ、あのぉ……」
空「目障りです。散りなさいっ」
 その言葉とともに放たれる交通安全、心願成就、運気隆昌、無病息災、招福縁結、安産祈願。
 それらは狙い違わず黒服を射抜く。
 呆然とする俺に走り寄る二人。
夏海「公人、大丈夫だった?」
空「お怪我はありませんか?」
公人「あ、うん……」

 しゃがんでお守りを拾おうとするのを引き止め、代わりに拾う。
空「ありがとうございます」
公人「いや、お礼を言うのは俺の方だから」
夏海「まぁ、ここは人通りの邪魔になるから移動しましょ」
 壁際に移動し、お守りを一つ一つ丁寧にほこりを落とす。
空「やはりお守りはご利益があります。たくさん買っておいてよかったです」
公人「え〜と、ここはツッコミ入れるところ?」
 夏海は複雑そうな表情を浮かべ、視線を泳がせていた。



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2006-08-04作成
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