「どうだ、己が娘との対面は」
「あぁ、クーそっくりで…… って、えぇ──っ!?」
何の前振りもなく壷から飛び出してきた少女が自分の子供だと聞かされても……
その、なんだ、こまる。
少女も少女で自分の身体を見て途方に暮れている。
「こにょような未しぇーじゅくな…… 舌が回らにゅ」
そう言って勢いよく立ち上がるが、バランスを崩し尻餅をつく。
「さすがに幼生では勝手も違う、か?」
「ははよ、われを…… うぅ、幼しぇいでしょーかんしたわけを聞かしぇてもらおう」
悔しそうな表情を浮かべ、ろれつの回っていない口調のまま問いかける。
「我がどれだけ強くなったとしても最大の敵となるは自分自身。 ならば、可能な限り能力は制限するのは当然であろう」
「うにゅにゅ……」
不満そうに眉をしかめる少女。
うにゅにゅってのは…… うぬぬ、か?
「それとな。 主には幼生に対する偏愛感情はないのが理由としてあげられる」
「むしろ、それが主にゃりゆーであろーが!」
小さな手を握り締め、今にも暴れだしそうなほど感情を高ぶらせている。
「我が娘よ、貴様は我にしては冷静さが足らぬようだな。 精神は肉体の奴隷にすぎないということか」
「しらにゅわ!」
少女は跳ねるように立ち上がると、危なげな足取りで部屋から走り去った。
「……放っておいていいのか?」
「仮とはいえあれは我自身。 無茶はせぬであろう」
世界で一番信頼できそうもない台詞だった。
庭から水しぶきのあがる音とともに、少女の声が聞こえてくる。
窓に近寄り外に目を向けると、声を上げながら危なげな足取りで庭をかけ回っている姿が目に映った。
突然 娘だと言われても実感は湧いてこないが、不安定な足取りを見ていると心配になる。
「主よ、娘の動向が気になるか?」
背中から抱き締められ、耳元で問いかけられる。
「小さな身体で頑張っているのを見ていれば心配にもなる」
「ふむ。 それは誤算であった。 もう少し成長させておけばよかったかもしれぬ」
クーは頭を俺の肩に乗せ、静かに少女を見詰めていた。
「それで、あの子の名前はなんていうんだ?」
「彼奴は我らが娘にして、姿こそ違えども我自身、クー・トゥルー。 平行世界から呼び出すには色々制約があるのでな。 それ故、あの肉体に降ろした」
「それじゃ、あの姿にも意味があるわけか」
「あれは単に我の邪魔にならぬようにしたまで。 幼生であることに意味はない」
……鬼だ。
「我は邪神だと言っておろう」
「俺が何を考えているか読むなよ……」
「彼奴をどう呼ぶか考えているのであろう?」
「先読みもするなっつぅの」
「クトゥルー、クトゥルフ、クルウルウ、ク・リトル・リトル、クールー、ズールー。 主だった名称だけでもこの程度はある。 好きに呼ぶがいい」
窓の外では少女が何度も転ぶが、そちらに行こうにもクーに抱きとめられ移動できない。
クーの方に視線を向けると、穏やかな表情でこちらを見ていたクーと目が合う。
「主の方が限界か。 もう少し様子を見るつもりであったが仕方がない」
そう言うと身体に回していた腕を解く。
「さぁ、行ってやるがよい。 父としてな」